描かれている人物
上:(左から)其角、お園、土屋主税
赤枠左:大高源吾
赤枠右:落合其月
絵の解説
仇討ちを果たしたと報告に来た大高源吾
「いずれも、ごめん」
※右隣は在原行平。この演目には関係ございません。
感無量の土屋主税
「浅野殿、良い家来をお持ちになられたなぁ」
満足そうに笑みを浮かべる其角、安堵と共に兄の身を案じるお園
大高源吾に昼間の非礼を謝罪する落合其月。
切腹してお詫びしようとするが止められる。
衣装は俳優さんによって異なるようなので、かぶきねこづくしの汎用柄の肉球文様にしてあります。
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・土屋主税(つちやちから)
吉良家の隣家。大名。
赤穂贔屓。
・お園(おその)
土屋家の女中。
赤穂浪士・勝田新左衛門の妹。
・晋其角(しんきかく)
室井其角。俳諧師。
・落合其月(おちあいきつき)
其角の弟子。長谷川家の家臣。
他、近習河瀬六弥などがいます。
あらすじ
第一場 向島晋其角寓居の場
俳諧師の其角の家に、赤穂浪士の一人、大高源吾が新しい仕官先が決まったと暇乞いに訪れる。
討ち入りを期待していた其角は落胆する。
たまたま居合わせた細川家の家臣・落合其月は二君に仕える源吾を罵倒して足蹴にする。
其角が詠んだ「年の瀬や水の流れも人の身も」という上の句に、
源吾は「あした待たるるその宝舟」と附け句をして立ち去る。
第二場 土屋邸奥座敷の場
その晩、両国の吉良邸の隣、土屋主税の屋敷で雪見の会が催されていた。
其角は、挨拶もそこそこに自分が推挙したお園を解雇するよう頼む。
昼間の大高源吾の一件を話し、源吾ひいては赤穂浪士への怒りをあらわにする其角。
お園の兄の勝田新左衛門は大高源吾と仲が良いからどうせ不埒な赤穂浪士に違いないという理由である。
怒りが収まらない其角を尻目に、源吾の附け句の意味を探っていた土屋主税は、その真意を悟る。
申し訳なさから自害しようとするお園を引き止め、主税は歌の真意を説明する。
やがて隣家から太刀音が鳴り響き、ついに討ち入りが始まる。
主税は喜び勇んで高張提灯を灯し、討ち入りの力添えをする。
其角は木によじ登って源吾や新左衛門がいないか確認しようとする。
火事場装束に身を固め、土屋家に本懐を遂げたと報告に来た大高源吾は大石内蔵助からの手紙を読み上げる。
はしゃぐ其角、兄も討ち入りに参加したと知って喜ぶお園、昼間の非礼を詫びる其月。
悲喜こもごも。
呼び子の音が鳴り、「これが、今生の別れ」と別れを告げる源吾。
雪が舞う中、感無量の土屋主税。
幕。
私のツボ
ねっちりした上方の色気
「松浦の太鼓」の別バージョンなので、粗筋は同じです。
両演目の違いは次項にまとめました。
どちらが好きかと言われると私は「松浦の太鼓」ですが、「土屋主税」には独特のムードがあります。
上方らしいしっとりした雰囲気、甘い匂い。
具体的に何がどうと答えられないのですが、例えば、
お園と土屋侯が単なる主従関係ではなく、”お手つき”であることがなんとなく雰囲気で読み取れます。
「松浦の太鼓」のお縫も松浦侯の”お手つき”ですが、あまり感じられません。
うっかりお縫に手を出したけれども、女遊びより男友達とワイワイするのが好きであろう松浦侯からは、あまりセクシャルなものを感じません。
だからこそ、あの無邪気な明るさに繋がるのだろうと思います。
どちらも色気のある殿さまなのですが、土屋侯の色気にはねっちりした上方独特の甘さがあります。
この”ねっちりした色気”は、13代目片岡仁左衛門の言葉で、古い演劇界で二代目片岡秀太郎のことを「大阪の女方らしいねっちりした色気があり、」と評していました。
”ねっちりした色気”
なんと言い得て妙な言葉でしょう。
余韻を肌に残すような、まとわりつくような、お餅のような、でも指離れの良い、
砂糖のようにべたつきが残らない甘さ。
「土屋主税」を観劇した際、まったく世界観が異なる「廓文章」と同じ匂いを感じました。
それはこの”ねっちりした色気”なのかなと思います。
この”ねっちり”はどこから来るのか、おそらく人情ではないかと思うのですが、まだまだ上方の色気の秘密を解明できていません。
「松浦の太鼓」と「土屋主税」
「松浦の太鼓」を初代鴈治郎に当てて改作したものが「土屋主税」。
初代鴈治郎の当たり役と言われ、玩辞楼十二曲の一つ。
成駒屋のお家芸です。
大筋は同じですが、異なる点がいくつかあります。
(1)土屋主税のキャラクター
陽気な松浦侯と違って、落ち着いたお殿様。
分別のある捌き役に近い。
(2)其角のキャラクター
「松浦の太鼓」での温厚な其角とは打って変わって血気盛んです。
松浦侯のドタバタした性質を担当しています。
弟子の其月も師匠同様に激昂型です。
其月は「松浦の太鼓」には登場しません。
(3)お園と大高源吾の関係性
「松浦の太鼓」では兄妹の設定ですが、「土屋主税」では、お園の兄は勝田新左衛門。
兄が大高源吾と同じ赤穂浪士で、仲が良いという設定。
当の勝田新左衛門は登場しません。
(4)笹竹売
笹竹売りに身をやつした大高源吾が雪の中、両国橋のたもとで其角とすれ違う。
「松浦の太鼓」でお馴染みの場面ですが、「土屋主税」では二本差しの武士然とした佇まいです。
と、大きく違う点を挙げました。
これらの違いに何かしらの意味があるとすれば、「松浦の太鼓」と区別するために尽きると思います。
ちなみに、実際に吉良邸の隣に住んでいたのは土屋主税です。
松浦さんは向島に住んでいました。
もともとは『新舞臺いろは書初(しんぶたいいろはかきぞめ)』(初演 安政三年/ 1856年)の十一段目が「松浦侯」で、これが明治時代に改作されて「松浦の太鼓」となりました。
原作の『新舞臺〜』が江戸時代に書かれたものなので、吉良邸の隣人は実際の土屋主税ではなく、松浦侯となっていました。
それがさらに改作され、より史実に近くなったというわけです。
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