描かれている人物
AKPC03
赤枠上、下:蜑女苅藻(あまみるめ)
AKPC04(四代目坂田藤十郎バージョン)
赤枠上:蜑女苅藻(あまみるめ)
同 下:(左から)此兵衛(このへえ)、苅藻(みるめ)
絵の解説
苅藻の出。
左:従来の「汐汲」
行平の形見の烏帽子と狩衣を身につけ、両天秤の汐汲桶を下げて登場
右:四代目坂田藤十郎バージョン「汐汲」。
汐汲桶は一つ。
烏帽子と狩衣は松の木にかけられている。
三蓋傘(さんがいがさ)の踊り(従来の「汐汲」)
此兵衛との立廻り(四代目坂田藤十郎バージョン)
振り向いてくれない苅藻が憎くなった此兵衛は斬りかかろうとするが、苅藻に翻弄される。
浜辺の松
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・苅藻(みるめ)
蜑女(あま)。
・此兵衛(このへえ)
苅藻に恋をする漁師。
通常の「汐汲」には登場しません。
「須磨の写絵」には登場します。
あらすじ
これまでの経緯
平安時代の歌人・在原行平(ありわらのゆきひら)は、配流(はいる)された須磨で汐汲の姉妹と出会う。
彼女たちを松風・村雨と呼び、ねんごろになる。
三年後、都への帰還が許された行平は、烏帽子と狩衣を松の枝に掛けて二人に何も告げず立ち去る。
汐汲
月の美しい秋の夜。
須磨の浜辺にやって来た蜑女の苅藻は、会うことの叶わない恋人に思いを馳せて舞を舞い始める。
桶に映る月に恋人の面影を見て悲しむ娘の恋心。
通常はここで終わり。
藤十郎さんバージョンは、此兵衛が出てきて立廻りで幕。
私のツボ
「汐汲」いろいろ
日本舞踊でお馴染みの「汐汲」。
汐汲桶の天秤を肩にかける姿は、「藤娘」「道成寺」と並んで日本人形でもよく見かけるベスト3です。
謡曲「松風」にちなんだ”松風もの”と呼ばれる作品です。
松風は和菓子でもよく見かけます。
これまた色々バリエーションがあるのですが、それはさておき。
海辺の松、満月。
というシチュエーションが好きで、いつか描きたいと思いつつタイミングが合いませんでした。
「汐汲」の変形バージョンに「二人汐汲」「今様須磨の写絵」「浜松風恋歌(はままつかぜこいのよみびと」があります。
四代目藤十郎さんバージョンは、2010年6月博多座で初めて上演されたもの。
衣装、演出、振り付けも一新された「汐汲」。
青のグラデーションの着付が新鮮です。
「汐汲」の衣装は海にちなんだ文様が施されています。
みるめ
苅藻のことをずっと「かりも」と読んでいて、「みるめ」と知って驚くと同時に納得がいきません。
何をどうしたら「みるめ」になるのか。
そもそも、松風・村雨ではないのか、とも思いますが、これは苅藻という蜑女に松風の亡霊が乗り移ったという設定だと思います。
みるめ、という読み方についてですが、
”海松布(みるめ)”という海藻にちなんでいます。
海松(みる)という海藻が古くから日本の海にはあり、そこに根の部分を意味する布(め)を合わせた言葉です。
深緑色の、やや肉厚の海藻で、酢味噌をつけて食べると美味しいそうです。
身近な海藻だった海松布は万葉集や古今集など多くの和歌で詠まれています。
見る目と海松布を掛けて、恋の歌でよく用いられました。
歌舞伎でお馴染み、小野小町の歌にもあります。
みるめなきわがみをうらと知らねばやかれなで海人の足たゆくくる
小野小町(古今和歌集)
これは、在原業平の歌への返歌として伊勢物語に出てきます。
実際には、たまたま業平と小町の歌が古今和歌集で並んでいただけなのですが、伊勢物語の作者が妄想を膨らませたと言われています。
業平といえば、行平の異母弟。
在原兄弟にちなみ、主人公の名前の読みを”みるめ”にしたのではないかと思います。
漢字の”苅藻”は、「海人の刈藻(あまのかるも)」という平安〜鎌倉時代頃に書かれた悲恋物語から取ったのではないでしょうか。
なかなか含蓄深い名前です。
在原行平
赦免となって都に帰った行平は、松風が忘れられず恋煩いの日々を送っています。
そんな行平が登場するのが「倭仮名在原系図(やまとがなありわらけいず)」。
通称「蘭平物狂(らんぺいものぐるい)」。
と、見せかけて恋煩いは実は仮病。
なかなか食えない御仁です。
なお、異母弟の業平は「六歌仙」に登場します。
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