KNPC213 花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)~十六夜清心(いざよいせいしん)

かぶきねこづくし

KNPC213「十六夜清心」

描かれている人物

赤枠上:(左から)十六夜、清心
赤枠下左:(左から)清心、寺小姓恋塚求女
赤枠下右:(左から)十六夜、俳諧師白蓮

絵の解説

稲瀬川のほとり、心中しようとする二人。

原画

介抱のため胸をさすろうと懐に手を入れると、大金が入った財布に手が触れて…
運命の分かれ道の瞬間。

原画

白蓮に囲われることになった十六夜。
幕切のだんまり

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・清心(せいしん)
鎌倉極楽寺の僧。遊女十六夜と深い仲になり、女犯の罪で追放される。

・十六夜(いざよい)
大磯扇屋の遊女。清心の子供を身籠もっている。

・俳諧師白蓮(はいかいしはくれん)
鎌倉雪ノ下で暮らす裕福な俳諧の師匠。

・恋塚求女(こいづかもとめ)
十六夜の弟。

あらすじ

外題『小袖曽我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)』河竹黙阿弥作

序幕 稲瀬川百本杭〜川中白魚船〜百本杭川下
極楽寺の所化・清心は、大磯扇屋の遊女・十六夜と密通し、女犯(にょぼん)の罪で寺を追われる。
それを知った十六夜は清心を追って廓を抜け出す。
彼女は清心との子供を宿していた。
稲瀬川百本杭でばったり出会った二人は心中を決意し、川に身を投げる。

十六夜は釣船に乗っていた俳諧師・白蓮に助けられる。

一方、泳ぎの上手な清心は死にきれず岸に上がる。
そこへ寺小姓・求女が通りかかる。
癪を起こして苦しむ求女を、清心が介抱しようと懐に手を入れると五十両の財布に指が触れる。
十六夜の供養のためと金を無心する清心。
揉み合ううちに清心は誤って求女を殺してしまう。
罪悪感に苛まれる清心だったが、遊山船の騒ぎ唄を聞くうちに悪に目覚める。

白蓮・清心・十六夜のだんまりで幕。

二幕目 初路小路白蓮妾宅
十六夜は白蓮に身請けされ、おさよと名を改める。
おさよの実父・左五兵衛(さごべえ)も白蓮の世話になっていた。
おさよは毎晩、家人に隠れて清心の回向をしていた。
それを知った白蓮は、おさよの貞節に感じ入り、出家を許す。
左五兵衛は、求女の菩提を弔うため剃髪して西心と名を改める。
父と娘は弔いの旅に出る。

この後、おさよは箱根山中の地獄谷で清心改め鬼薊清吉と再会する。

三幕目 雪の下白蓮妾宅
おさよは清吉と夫婦になり、すっかり悪党となった二人は白蓮の家にゆすりに来る。
白蓮が出した百両には極楽寺の封印がついており、白蓮は盗賊・大寺正兵衛(おおでらしょうべえ)であることがわかる。
また、清吉が白蓮の弟であったこともわかる。
そこへ捕手が押し寄せる。

三幕目で終わる場合は立ち回りの後、幕。
大詰に続く場合は、三人とも逃げる。

大詰 名越無縁寺
おさよの父・西心は無縁寺の墓守になっていた。
そこへ清吉とおさよが赤子とともに訪ねて来る。
ここでおさよは弟の求女が殺されたことを初めて知り、清吉は殺した若者がおさよの実弟であったことを知る。
因果の恐ろしさに二人は自害(演出によって死に至る過程が異なりますが、最終的に二人とも死ぬ)。
奇しくも心中未遂の日からちょうど一年たっていた。
そこへ正兵衛が逃げてくるが、捕手に囲まれて幕。

私のツボ

分岐点にいる人々

久々の通し狂言ですが、諸事情によりかぶきねこづくしは前半の道行のみとなり、
やむなく過去に描いたKNPC116を刷新することにしました。
それぞれの運命の分岐点という視点で描きました。

まさに身投げせんとする十六夜と清心。
それが死の道行であれ、共に人生を歩もうとする二人でしたが、川に身を投じたがために二人は離れ離れになってしまいます。
運命の分かれ道に足を踏み入れる瞬間。

次に、道が分かれた二人の行く末。
まず清心。
求女の懐に手を入れ、五十両に指が触れた瞬間。
金を意識した瞬間。
十六夜への思慕と死にきれなかった自分への情けなさでいっぱいだった彼の心に、金という分かりやすい欲が入り込み、生きることへの執着が生まれます。

清心が完全に悪の道へ振り切れてしまうきっかけは賑やかな騒ぎ唄ですが、悪の道という選択肢が生まれてしまった瞬間とも言えます。
この瞬間の清心の表情は演じる俳優さんによって異なるので、それを見るのもまた楽しいです。

そして同じく死にきれなかった十六夜ですが、すでに落ち着いた表情で白蓮と佇んでいます。
妾としての運命を受け入れた表情。
この切り替えの速さは、お腹に宿した子供のためと言えましょう。
清心がすぐ近くにいるのですが、闇夜なので互いに気が付きません。
さっきまで手を重ね合わせ、運命を共にしていた十六夜と清心なのに、身も心もすっかり遠くになってしまった。

ほんの数時間で運命が変わってしまった人たち。
朧月夜の悲喜こもごも。

修正箇所

十六夜の裾
原画では十六夜の裾の先が川面に触れているのですが、これはNGとのことで裾を木板の上に乗せました。
資料とした舞台写真を確認すると裾が川面に触れているもの・触れていないものとありました。
個人的には裾が川面に触れいている方が遊女の哀愁が感じられて好きなのですが、裾の始末は一定ではないようです。

白蓮の傘の持ち方
白蓮の傘の持ち方並びに、だんまりの演出がまだ定まっていないとのことで、バストアップの構図に変更になりました。
遊女の風情はすでになく、すっかり妾が板についた十六夜。
チラッと裾から覗く素足のつま先が色っぽいです。

 

旧作はこちらKNPC116

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