KNPC74「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」より「陣門・組打(じんもん・くみうち)」

かぶきねこづくし

描かれている人物

平敦盛(たいらのあつもり)、熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)

絵の解説

左:白馬 / 平敦盛(たいらのあつもり)
右:黒馬 / 熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)原画

「組打」
瀬戸内海をのぞむ海。波間で戦う二人の武士。
”遠見(とおみ)”と呼ばれる演出で、遠近感を出すため子供が演じます。

松(原画)

いつもは水彩紙をパネルに水張りして描いています。
水張りが面倒かつ苦手なので、あらかじめ薄手の板に紙が張り込まれたパネルを導入。
水張りの手間を省略できる以外は不便ばかりなので、この一枚だけで試用は終わりました。

あらすじ

本外題 「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」二段目

主な登場人物と簡単な説明

・熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)
当時武蔵国熊谷郷(現在の埼玉県熊谷市)出身の武将。
かつて北面の武士として平家に仕えていましたが、後に源頼朝の御家人となります。

・熊谷小次郎直家(くまがいこじろうなおいえ)
熊谷直実の息子。一谷の合戦で初陣を迎えた16歳の青年。

・平山武者所季重(ひらやまむしゃどころすえしげ)
源氏の武士。悪役。玉織姫に横恋慕している。

・平敦盛(たいらのあつもり)
笛の名手としても知られる平家の武将で、実は後白河法皇の落胤。

・玉織姫(たまおりひめ)
敦盛の恋人。

あらすじ

陣門
平家は都を追われ、津と播磨の境にある一ノ谷に陣を構えていた。
敵陣に一番乗りで到着した熊谷小次郎は、平山にけしかけられて陣内へ攻め入る。

そこへ熊谷直実が到着。
熊谷は陣内に入り、手傷を負った小次郎を抱えて出てくる。
やがて白馬にまたがった若武者、平敦盛が陣内から姿を見せたので、平山は慌てて退散。

ところ変わって須磨の浜辺。
敦盛を探し歩いていた玉織姫は平山に遭遇する。
平山は玉織姫を我が者にしようするが抵抗され、姫を刺して岩影に投げ込む。

組打
一の谷の戦いに敗れた平家方は、須磨浦から舟で落ち延びようとしていた。
敦盛と熊谷は海中で一対一の斬り合いになる。
やがて浜辺に押し戻され、熊谷が敦盛を組み敷く。
見れば我が子、小次郎と同じ年頃の青年。
逡巡する熊谷であったが、敦盛の首を打ち落とす。
そこへ盲目となった瀕死の玉織姫がやって来て、敦盛の首を見せてほしい懇願する。
熊谷が敦盛の首を抱かせると、玉織姫は息絶える。
熊谷は二人の亡骸を板に載せて海へ流し、敦盛の首と鎧兜と共に自分の陣へと引き上げるのだった。

私のツボ

歌舞伎の馬は大道具さん二人が扮するのですが、この馬がとても上手に演技をします。
主人を失って、トボトボと花道を立ち去る姿がなんとももの悲しいです。

「陣門・組打」は戦の無常さ、やるせなさばかりなのですが、
組打の波間で戦う姿の色彩がとても美しいです。

敦盛の白馬と朱色の母衣(ほろ:幅広の絹布で風で膨らませることで矢などを防いだ)、
対する熊谷は黒馬に紫の母衣。
波布とのコントラストが美しい。

波打ち際で、熊谷が敦盛を斬ろうとする場面、
玉織姫の嘆きの場面、
と、他にも描きどころはたくさんありますが、動きが感じられる絵にしたかったので、海中での一騎打ちの場面にしました。

海辺の松

歌舞伎の舞台にはよく松が登場します。
松羽目物の壁に描かれた松、庭の背景に描かれた松、造作物としての松。
とにかく松が多く出てきます。

この場面を描くにあたり、やはり海辺の松を見に行かねばと、葉山にスケッチに行きました。
厳しい海風にさらされるからか、幹や木肌は細く締まっており、やや斜めにかしいだ松が多いです。
その孤独な渋い佇まいがなんとも言えず、以来、海辺の松を愛でるのが趣味になりました。
今でも海辺に生えている松を描くのは好きで、よく描きますが、きっかけはこのカードで描いた松です。

コメント