KNPC209「仮名手本忠臣蔵〜七段目」

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC38:おかる、平右衛門、大星力弥
KNPC39:(左から)由良之助、おかる
KNPC40:(左から)由良之助、九太夫、おかる / おかる、平右衛門
KNPC41:(左から)九太夫、由良之助

絵の解説

めんない千鳥の由良さん
「鬼さんこちら手のなる方へ」
「捕まえて酒のまそ」

原画

顔世御前からの手紙を読み始める由良之助

原画

幕切の見得
二重の上に由良之助とおかる、平舞台に平右衛門と九太夫、東京式の幕切
「水雑炊を喰らわせい」

原画

あらすじ

「仮名手本忠臣蔵」七段目

主な登場人物と簡単な説明

・大星由良之助(おおほしゆらのすけ)
塩谷判官の元家老。
敵を油断させるため、祇園の茶屋で放蕩三昧している。

・おかる
勘平のために祇園に身売りして遊女として働いている。

・平右衛門(へいえもん)
おかるの兄。塩谷家の元足軽。
刃傷事件の際は東国へ使いに行っていた。仇討ちの一味に加わりたい。

・大星力弥(おおほしりきや)
由良之助の息子。由良之助と一緒に放蕩三昧。

・斧九太夫(おのくだゆう)
塩谷家の元家老。師直側に寝返りスパイとなって由良之助を探っている。

他、三人侍、鷺坂伴内などがいます。

あらすじ

「一力茶屋」
判官の刃傷事件から半年。
塩谷浪人へ世間の同情と仇討ちの期待が高まっている。
そんな中、大星由良之助は、敵を欺くために祇園で放蕩三昧の日々を送っていた。
仇討ちの同志たちが一力茶屋を訪ね、決行を迫るが由良之助は軽くあしらうばかり。
おかるの兄・寺岡平右衛門は、仇討ちに加えてもらうよう嘆願書を手渡しにくるが、酔った由良之助は寝てしまう。

師直の家来・鷺坂伴内と内通している斧九太夫は、由良之助に仇討ちの意思があるかどうか確かめるため、お逮夜(おたいや:命日の前夜で精進潔斎すべき夜)であることを知りつつ、生臭ものの蛸を勧める。
由良之助がためらわずに蛸を食べるのを見ても疑念は晴れず、九太夫は床下に潜んで様子を伺うことにする。

そこへ息子の力弥が人目を忍んで顔世御前の密書を届けにくる。

宴席から離れ、縁側で密書を読む由良之助。
だが、二階で涼んでいたおかるが、床下では斧九太夫が、密書を盗み読みしていた。
そうと知った由良之助は、おかるに身請け話を持ちかける。
口封じのため殺されるとも知らず、おかるは身請け話を喜ぶ。
由良之助の真意に気づいた平右衛門は、どうせ殺されるなら兄の手にかかって死んでくれ、仇討ちに参加するために手柄を立てさせてくれと頼む。
兄から父と勘平の死を聞いたおかるは悲しみのあまり癪を起こし、平右衛門に命を差し出す。
そんな兄妹の気持ちを知った由良之助は、死んだ勘平のかわりにおかるに刀を持たせ九太夫を突き刺し、平右衛門を四十七士に加える。

私のツボ

由良之助三段跳びと「七段目」の色彩

七段目における由良之助のありようの変化という題材で、三段跳びの構成にしました。
(1)放蕩にふける由良之助
(2)忠臣・由良之助が垣間見られる
(3)本心を明かして大団円

(1)ホップ:由良鬼
めんない千鳥の場面は大好きで、七段目で真っ先に描こうと思い立ったのがこの由良鬼。
じゃらじゃらと戯れる様子が、大人の遊び場の軽薄な明るさというか、上辺だけの華やかさというか、大事な取引先を接待する高級クラブのような空気が滲んでいて大好きです。
「楽しいことだけ考えていましょうよ、ね」みたいなムズムズする大人の社交。
で、その上司の嬌態を目にして不快感をあらわにする三人侍。
仲居も食えない感じで、ここは何度見ても飽きません。

見立(みたて)に興じる由良之助、寝たふりをする由良之助と、他にも候補がありますが、七段目といえばめんない千鳥というわけで、由良鬼登場の場面。

華やかな段鹿子の幕をさっと開けて登場する由良之助。
段鹿子といえば緋色と浅葱ですが、ここは布が大きいからか淡い色調に抑えられています。

後頭部にくっついている弊は、本来は髷に引っかかっていますが、猫なので静電気でくっついていることにしています。

(2)ステップ:密書
途端に眼光が鋭くなる場面。
この前に、裏木戸で力弥から密書を手渡される時も厳しい表情になりますが、ここでは一人静かに気を入れる場面。
床下には九太夫が、二階にはおかるがいます。
朱色の壁と、紫の衣装のコントラストが美しい。

(3)ジャンプ:大団円
おかるに身請けの話を持ちかけて一旦由良之助は引っ込みます。
おかると平右衛門のやりとりを経て、「やれ待て、両人早まるな」のセリフと共に再び登場した由良之助は衣装が紫から鶯色に変わっています。
これは性根の変化、世を忍ぶ仮の姿(遊びにふける由良之助)から本来の姿(仇討ちの計画を進める由良之助)に変わったことを示しています。
紫の衣装といえば助六の病鉢巻、「源太勘当」の源太、「保名」の阿部保名、「吉田屋」の伊左衛門、「伽羅先代萩」の足利頼兼と枚挙のいとまがありませんが、色男や御大尽の衣装によく用いられる色です。
「七段目」前半における由良之助の衣装の裾の袘(ふき)部分は、鶯色なので、ここで本心を示唆しているのかなとも思います。

ではなぜ鶯色かというと、
他の役柄の衣装の色を鑑みて、緑系を選ぶしかなかった、というのが私の見解です。

おかるは薄紫、平右衛門は黒、九太夫は茶。
絵には描いていませんが、途中登場する鷺坂版内は芥子色の着付に黒羽織です。
三人侍はグレー系の着付と袴に、青紺、緑、濃紺の羽織。
由良之助は主役なので色が被っては目立たないため、使われていない緑系になったのだろうと思います。
「九段目」の由良之助の袴は濃い緑色ですが、「七段目」は朱色の壁とのバランスを鑑みて柔らかい中間色の鶯色になったのではと推察しています。

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