描かれている人物
左上:(左から)忠七、おくま
右上:新三
左下:忠七を踏みつける新三
背景:永代橋
絵の解説
「白子屋見世」
忠七に駆け落ちしようと迫るおくま。
「白子屋見世」
忠七とおくまのやりとりを立ち聞きする新三。
神妙な顔をして他人の秘密を立ち聞き。
「永代橋川端」
忠七を傘でうちのめし下駄で踏みつける新三。
本性をあらわにする場面。
揺れる柳、驟雨の夜。
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・新三(しんざ)
廻りの髪結。
お熊を自分の家に監禁して色と金の両方を手に入れようと企む。
深川富吉町の長屋暮らし。家賃を滞納している。
・忠七(ちゅうしち)
京橋新材木町の材木問屋白子屋の番頭。白子屋の娘・お熊と相愛になる。
・お熊(おくま)
白子屋の娘。忠七と結婚の約束をしているが、経営難の店を救うため政略結婚させられそうになっている。
・長兵衛(ちょうべえ)
新三が住む長屋の大家。
・弥太五郎源七(やたごろうげんしち)
神田界隈を縄張にする落ち目の親分。昔ほど顔がきかなくなっている。
他、下剃勝奴(かつやっこ)、お常(つね)、家主女房おかく、車力善八(ぜんぱち)、合長屋権兵衛などがいます。
あらすじ
「梅雨小袖昔八丈」(つゆこそでむかしはちじょう)河竹黙阿弥作
材木屋白子屋の娘・お熊は手代の忠七と恋仲ですが、持参金目当ての結婚話が進んでいます。
廻りの髪結新三は忠七に駆け落ちをそそのかし、お熊を誘拐します。
騙された忠七は川に身投げしようとしますが、土地の侠客・源七に助けられ、一旦店に帰ります。
お熊の身代金を白子屋から巻き上げるつもりの新三は朝湯帰りに初鰹を買ってご機嫌です。
源七が話をつけに新三の家へ来ますが、新三に恥をかかされ追い返されます。
老獪な家主長兵衛は、お熊を保護して帰した上に、新三から上前をはね、鰹まで持っていきます。
数ヶ月後、面目を潰された源七は新三を待ち伏せし、切り殺すのでした。
私のツボ
悪いやつでもなければ良いやつでもない曖昧な人々
江戸情緒あふれる人気作品として上演頻度の高い作品です。
七五調のセリフが耳に心地よく、いまいち内容がよく分からなくても、身を委ねて楽しむことができてしまう作品です。
江戸の風情を如実に語るのは、鰹売りや長屋の造作などの風俗描写だけでなく、リアリティある登場人物たちです。
落ち目の狭客、小狡い老人、わがまま娘、気の弱い優男、その日暮らしの小悪党。
江戸の粋を体現したような幡随院長兵衛のような侠客や、鼠小僧次郎吉のような義賊は登場しません。
江戸時代とはいえ、粋で鯔背な江戸っ子はそうそういないでしょうが、自分に甘く他人に厳しいー要は小狡い家主長兵衛や新三や源七のような人間はゴロゴロいたことでしょう。
21世紀の今でもよく見かけます。
誰しも善悪併せ持ち、時に善人にもなれば悪人にもなる。
そんな有り様を批判するでもなく、現実味あふれる登場人物たちが初鰹を買ったり万年青(おもと)に水をやったりするからこそ江戸の風俗描写も活きるというものです。
実が伴わない表層は、軽く白々しいものです。
小手先だけで風情を感じさせることはできないと、黙阿弥の手腕に感服する作品です。
悪人モードになっている新三を描きました。
悪とユーモアの匙加減は新三を演じる俳優さんによりますが、玄関先で立ち聞きする場面と忠七を踏みつける場面はどちらも凄みのきいた顔をしています。
決めるところは決めておかないと、ユーモアもいきません。
悪いやつでもなければ良いやつでもない、どっちつかずあるいは曖昧な人間性がこれまた新三の個性でもあり、この演目の魅力でもあると思います。
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