KNPC207 「當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)」

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤丸枠上:横山大膳
同  下:照手姫
背景:小栗判官と馬

絵の解説

「横山大膳館の場」
小栗判官を睨む横山大膳

横山大膳(原画)

横山大膳父子によって囚われの身となった照手姫

照手姫(原画)

人喰い馬の鬼鹿毛(おにかげ)を手なずけ碁盤に乗る小栗判官

小栗判官(原画)

あらすじ

この演目は、大まかに四部に分かれます。
舞台設定で分けると、
①横山大膳の屋敷
②琵琶湖の漁村
③美濃の町人の屋敷(通称:万長屋敷)
④熊野の霊場
となります。
ポストカードは①④のみですが、全編のあらすじを書いています。
長いので折りたたんであります。
なお、上演時間の都合により演出が異なる場合がありますが、基本設定などは変わりません。

・常陸国をめぐるお家騒動
・紛失した家宝”勝鬨の轡”
・貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)
という歌舞伎定番の三つの柱で物語が進みます。

主な登場人物と簡単な説明

①序幕の登場人物
・小栗判官兼氏(おぐりはんがんかねうじ)
知勇に長けた武将。将軍家が決めた照手姫という許嫁がいる。

・照手姫(てるてひめ)
常陸国の領主・横山郡司満重の息女で小栗判官の許嫁。

・横山大膳(よこやまだいぜん)
常陸国の領主・横山郡司の弟。照手姫の叔父。
常陸国を乗っ取ろうと企む悪人。
次郎・三郎という二人の息子がいる。

他、横山次郎、横山三郎、上杉安房守、三浦采女之助、奴三千助などがいます。

②二幕目の登場人物

・浪七(なみしち)
琵琶湖のほとりに住む漁師。
小栗判官の元家臣だったが不義を犯して小栗家を追われた。
小栗家に帰参するため照手姫を匿っている。

・お藤(おふじ)
浪七の女房。

・鬼瓦の胴八(おにがわらのどうはち)
お藤の実兄。実の妹にも手を出そうとするやくざもの。
金欲しさに照手姫を誘拐する。

・矢橋の橋蔵(やばせのはしぞう)
やや足りない小悪党。チャリ役。

他、馬士膳所の四郎蔵、庄屋、漁師などがいます。

③第三部の登場人物

・お槙(おまき)
美濃の名家・萬家の後家。
照手姫の乳母で、横山家のためにも照手姫の行方を探していた。
照手姫そのひとであると知らず、小萩(こはぎ)という下女を雇う。

・お駒(おこま)
お槙の実の娘。小栗判官に一目惚れする。

他、女中、旅女房などがいます。

④大詰の登場人物

・小栗判官(おぐりはんがん)
主君の仇討ちと許嫁の救出のため奔走する。
小栗の元家臣・浪七と役を兼ねるため、第二幕には登場しない。
美濃で照手姫と再会を果たすも、お駒に祟られてしまう。
顔が爛れ、足腰が立たなくなった小栗は照手姫と熊野の霊湯に向かう。

・照手姫(てるてひめ)
常陸国の領主・横山郡司満重の息女で小栗判官の許嫁。
大膳の館から逃げ、琵琶湖のほとりの漁師に匿われた後に美濃へ逃れ、土地の名家の下女として働く。
そこで浪人に身をやつした小栗と再会する。
お駒に祟られた小栗は足腰が立たなくなり、病気を治すため、照手姫と二人で熊野の霊湯を目指す。

・遊行上人(ゆぎょうしょうにん)
熊野の峯で修行する修験者。
お駒の祟りで足腰が立たなくなった小栗を祓い、元の身体に戻す。

あらすじ

第一部・発端「鶴ヶ岡八幡宮社前の場」
※上演時間の都合等で省略される場合があります。
桜咲く鶴ヶ岡八幡。
横山大膳の還暦祝いで、姪の照手姫は父の名代として家来たちと連れ立ってやってくる。
ところが常陸国を乗っ取ろうと企む大膳は、息子・次郎と三郎を差し向け郡司を刺殺、将軍家から預かっているお宝”勝鬨の轡(かちどきのくつわ)”を奪う。
さらに照手姫も誘拐する。
その後、上杉安房守と三浦采女之助が通りかかり、郡司の横に落ちていた小柄から大膳の犯行と見破る。

第一部・序幕「鎌倉横山大膳館」
照手姫救出のため、将軍の使いとして小栗判官が大膳の館にやってくる。
そうとは知らない照手姫は、奴三千助の手助けにより、藤沢の遊行上人を頼って館から逃走する。
大膳は荒馬・鬼鹿毛をさしむけ、小栗を食い殺させようとする。

しかし小栗は鬼鹿毛を乗りこなし、大膳の「その馬を碁盤の上に立たせてみよ」という難題も容易くこなしてしまう。

腹を立てた大膳は小柄を小栗に投げつける。
そこへ三浦采女之助が郡司殺しの証拠となる小柄を持って現れ、両方の小柄が一致することから、郡司を殺害したのは大膳であることが判明する。
小栗は仇を取ることを誓い、荒馬にまたがって照手姫の後を追いかける。

第一部・二幕目「近江国堅田浦浪七住家」

琵琶湖のほとり。
かつて小栗判官の家臣だった漁師浪七は、旧主に忠義を立てるため、逃亡中の照手姫を密かに自宅に匿っていた。
浪七夫婦の様子から、照手姫を匿っていることを悟った胴八は、矢橋の橋蔵を偽の代官に仕立てて浪七を問い詰めるが失敗に終わる。
だが、遂に照手姫を見つけた胴八は、姫を誘拐。
それを止めようとしたお藤は胴八に刺されて命を落とす。

「同 浜辺」
胴八は姫を押し込んだ籠と共に小舟で湖に漕ぎ出し、沖へと出ていく。
浪七は腹に刀を突き立て、命と引き換えに船を戻してほしいと竜神に願う。
はらわたを湖に投げ込むと、やおら突風が吹き、小舟は岸へと押し戻される。
浪七は胴八を倒し、照手姫を一人舟に乗せて瀬田へと押し出す。
浪七は胴八にとどめを刺して息絶える。

第二部・三幕目「美濃国青墓宿(あおはかのしゅく)宝光院門前の場」

※上演時間の都合等で省略される場合があります。
美濃国の青墓宿(現在の岐阜県大垣市青墓町)。
土地の名家の後家・お槙と実娘のお駒が紅葉を愛でに宝光院に来ている。
ならず者に絡まれる二人を、浪人に身をやつした小栗判官が助ける。
お駒は小栗に一目惚れする。

同 「万福長者内風呂の場」
※上演時間の都合等で省略される場合があります。
紛失した将軍家の家宝”勝鬨の轡”が万屋にあると知った小栗は、万屋に婿入りすることになる。
奇しくも、万屋でこきつかわれる下女・小萩は人買いに売られた照手姫であった。
婚礼の当日、風呂の用意をしていた小萩は、花婿が小栗と知って動揺する。

同 「奥座敷の場」
祝言の席。
お槙が婿引きとしてすえた”勝鬨の轡”が本物であると確認した小栗は、祝言が偽りであったこと、盗まれた家宝を探すためだったと説明する。

お槙は実は照手姫の乳母で、横山家再興のため照手姫を探すために腕の立つ婿が欲しいと事情を説明し、予定通りお駒と祝言をあげるよう懇願する。
小栗が素性を話し、下女・小萩が実は照手姫であることを明かす。

主従の対面に喜ぶお槙だったが、婿を盗られたお駒は納得がいかない。
嫉妬に狂ったお駒は照手姫を殺そうとするが、制止しようとしたお槙に斬られてしまい息絶える。
お槙は泣いて詫び、小栗は念仏を唱える。
だが、お駒に祟られた小栗は顔が痛み、足腰が立たなくなってしまう。

大詰「熊野湯の峯の場」「道行情靡魂緒綱」

お駒の祟りによって、顔が半分ただれ歩けなくなった小栗。
照手姫は小栗を土車(つちぐるま:いざり車のこと)に乗せ、雪の中、熊野の霊場を目指す。
「道行情靡魂緒綱(みちゆきこころもしぬにたまのおづな)」という竹本連中による道行舞踊です。

やがて熊野の霊湯に辿り着くと、遊行上人は小栗を湯壺へと導き、みるみる快癒する。
大膳一味を捕まえるよう将軍家からの命がくだったと奴三千助から聞いた小栗は、馬を貸してほしいと熊野権現に祈る。
すると絵馬から白馬が飛び出し、小栗と照手姫を乗せて空高く駆け上るのだった。

同 「常陸国華厳の大滝の場」
修験者に変装した大膳父子は華厳の滝の前で計略を練っていた。
そこへ小栗が現れ、激しい争いとなる。
上杉安房守も加勢し、ついに大膳らを討つ。
お家再興を喜ぶ小栗と照手姫。
「本日はこれぎり」
切口上で幕。

私のツボ

小栗判官について

小栗判官といえば、スーパー歌舞伎での「オグリ」。
「當世流小栗判官」も原作は近松門左衛門の「當流小栗判官」ですが、独自の演出・構成により猿之助(三代目)四十八撰に選定されています。

家の芸は監修を通らないので避けますが、どうしても描きたかったのでダメもとで提出したら驚くことにOKが出た演目。
そもそもダメもとと思いつつも提出した理由は、藤十郎(四代目)さんが扇雀時代の1974年に武智鉄二演出の『小栗判官車街道』で小栗判官役をつとめ、大阪朝日座で上演されていること。
白馬の宙乗りはありませんが、筋立てはほぼ「當世流小栗判官」と同じで、馬の碁盤乗りもあります。
当時の資料によれば、久々の「小栗判官」復活上演、しかも通し狂言とあって大盛況だったとのこと。
また、上方では「曽我兄弟もの」に匹敵するほど馴染みのある演目だったことなどが書かれています。
異本も多く「姫競双葉草紙(ひめくらべふたばぞうし)」「熊野霊験小栗街(くまのれいげんおぐりかいどう)」「春鬼柳小栗外伝(はるのこまおぐりがいでん)」、「箱根霊験躄仇討(はこねれいげんいざりのあだうち)」などのスピンオフ作品もあります。

というわけで、「當世流小栗判官」がわりと近松の原作に近い内容であることから、”古典”と判断できるのではなかろうかとの判断に至り、監修に提出しました。

あれこれ書き並べましたが、正直なところ、なぜ監修を通ったのかいまだに分かりません。

前月の「勢獅子」で人数制限が設けられましたので、そこはもちろん厳守しました。
歌舞伎には馬が登場する演目がいくつかありますが、「當世流小栗判官」の馬方さんが一番アクロバティックだろうと思います。

修正箇所

照手姫の前簪(まえかんざし)の花の数の修正。
端のみ三段、他は四段。

照手姫の前簪(原画)

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