KNPC205 市原野のだんまり(いちはらののだんまり)

かぶきねこづくし

描かれている人物

上赤枠:(左から)鬼童丸、袴垂保輔、平井保昌
下:(左から)袴垂保輔、鬼童丸、平井保昌

絵の解説

朧月夜のススキ野、幕切のだんまり(修正前)

原画(修正前)

横笛を吹いて登場する平井保昌
かぶっていた牛の頭を外して正体をあらわす鬼童丸
拳銃を撃ちながら登場する袴垂保輔
※いずれも修正前

平井保昌、鬼童丸、袴垂保輔(修正前)

各修正パーツ
袴垂の髪型、ぶっかえり後の鬼童丸

鬼童丸の衣装、牛の縄

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・平井保昌(ひらいやすまさ)
藤原保昌。
摂津平井の庄に住んでいたことから平井保昌と呼ばれる。
四天王とともに酒呑童子を討伐したとされる勇猛な武将。

・鬼童丸(きどうまる)
酒呑童子の子と言われる盗賊。
源頼光の命を狙っている。

・袴垂保輔(はかまだれやすすけ)
盗賊。平井保昌を狙っている。

あらすじ

都のはずれの市原野。
朧月の光が優しく芒野を照らす秋の夜。
景色に魅せられた平井保昌が横笛を吹きながら歩いている。
その様子を芒の影から怪しい盗賊が二人ーー袴垂保輔と牛に化けた鬼童丸。
暗闇の中で探り合う三人、おのおの見得で幕。

私のツボ

月夜、盗賊、拳銃、バッファロー(牛)!

「だんまり」のゆっくりしたパントマイムのような動きが好きで、なかでも大好きなのがこの「市原野のだんまり」。
公家、拳銃をぶっ放す盗賊、仕留めた牛の中に隠れるというサイキックな鬼童丸。
字面だけを見ると違和感しかありませんが、これがまとまってしまう不思議さよ。
歌舞伎の底知れぬ懐の深さに感嘆します。

黒牛といえば、バッファロー。
やや強引な繋げ方ですが、Buffaloと名のつくミュージシャンは世界中にたくさんいまして、有名なところでは、かのニール・ヤングが在籍したBuffalo Springfield。
日本でもBuffalo Daughterというバンドがおりまして、ちょうど世代でライヴも何度か観たこともありバッファローという単語にはつい反応してしまいます。

Buffaloがつくバンドはだいたい粗っぽいロックが多いですが独特の繊細さとほのかな狂気を併せ持っています。
この取り合わせがまさに「市原野のだんまり」の世界のようだなと思えてなりません。
鬼童丸はまさにCaptain Beefheart。
BEEFといえば、映画『Phantom of the Paradise』に出てくるロックシンガーの名前がBEEFでした。

話を戻しまして、
ロックと歌舞伎と、一見すると交差しない世界ですが、こうしてシンクロニシティが感じられると非常に楽しくなります。
ただ自分の好きな世界を強引に繋げているだけですが、音楽も歌舞伎もロジックや形式ばかりでなく感覚で楽しむことがまず重要という共通点がそこにあると思っています。
「かっこいいか、どうか」あるいは「美しいか、どうか」
まずはその一点に尽きると思います。
考察はその後。

修正箇所

2004年2月歌舞伎座の幕見で観て、内容がよく分からないまま「なんか面白いものを観た」という印象だけが残っていた演目。
まさか18年もの時を経て、まして猫で描くとは思っていませんでした。
次、いつ再演されるか分からないので、この機を逃すまじと少ない資料と朧げな記憶をかき集めてなんとか描き上げました。
2004年2月公演の資料をもとに描きましたが、衣装や演出などが変更になるようで諸々修正が入りました。
袴垂は髪型含め、全体的にやや曖昧だったのでとてもありがたいご指摘でした。

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