KNPC120、202 荒川の佐吉(あらかわのさきち) 両国絵八景(りょうごくえはっけい)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC120:
(左から)佐吉、卯之助、辰五郎

KNPC202:
赤枠丸:(左から)佐吉、卯之吉
赤枠角:(左から)卯之吉、佐吉
背景:佐吉

絵の解説

KNPC102
明け方の隅田川の土手。
桜の散る中、辰五郎が連れてきた卯之吉に見送られながら立ち去る佐吉。

原画

KNPC202
法恩寺橋畦、夜泣きが止まない卯之吉をあやしていた佐吉。
親分の死を聞き、嘆き悲しむ佐吉。

原画

「そりゃぁ虫が良すぎるってもんだ」
卯之吉を引き取りにきたお新に、卯之吉への思いを語る佐吉。

原画

去り行く佐吉

原画

合羽の色がKN120と異なりますが、俳優さんによって異なるようです。
今回はブルーグレーで、との指示がありました。
上方の演出は合羽は緑が多いと思っていましたが一律ではないようです。
「沼津」の十兵衛の衣装も俳優さんによって微妙に異なります。
東西よりも誰に役を教わったか、によるのかも知れません。

あらすじ

「江戸絵両国八景 荒川の佐吉」真山青果 作

主な登場人物と簡単な説明

・佐吉(さきち)
腕の良い大工だが任侠の世界に憧れて仁兵衛親分の三下奴をしている青年。
お新の息子で盲目の卯之吉を育てる。

・辰五郎(たつごろう)
佐吉の大工仲間。堅気。

・卯之吉(うのきち)
お新の息子。生まれつき盲目だったため仁兵衛が引き取り、仁兵衛亡き後、佐吉が育てる。

・鍾馗の仁兵衛(しょうきのにへえ)
両国界隈をとりしきる親分。
お新、お八重という二人の娘がいる。

・お新(おしん)
鍾馗の仁兵衛の娘。日本橋の大丸丸総の妾。

・成川郷右衛門(なりかわさとえもん)
浪人。縄張り欲しさに仁兵衛を襲う。

あらすじ

荒川の佐吉は腕のたつ大工だが、任侠の世界に憧れて鍾馗の仁兵衛の三下奴として雑用をこなしていた。
佐吉が所用で甲府に出かけている間のこと、仁兵衛が成川という浪人に腕を斬られてしまう。
仁兵衛の娘・お八重の恋人・清五郎が仇を討とうとするが斬り殺される。

身体が不自由になった仁兵衛一家は解散、縄張りも子分も大半を成川に取られてしまう。

旅先ではしかにかかっていた佐吉が甲府からようやく両国に戻る。
本所の裏長屋にお八重とひっそり暮らす親分の零落ぶりに驚く佐吉だが、二人を支えると誓う。
ある日、仁兵衛が孫の卯之吉を連れて帰る。
長女のお新の息子だが、生まれつき盲目であるため引き取ってきたという。
仁兵衛はお八重に佐吉と一緒になって卯之吉を育ててくれないかと頼むが、お八重は金目当てだろうと激怒し家を飛び出す。
やけになった仁兵衛はイカサマ用のサイコロを掴むと、止める佐吉を振り切って出ていってしまう。

その夜、橋のたもとで卯之吉をあやす佐吉の元へ、イカサマ賭博がバレて仁兵衛が殺されたと知らせが入る。
佐吉は卯之吉を抱いて呆然と立ち尽くす。

仁兵衛が殺されてから七年。
佐吉は卯之吉と共に辰五郎の家に世話になっていた。
かつて盲目だからと卯之吉を手放した丸総が、今になって息子を返してくれと言ってくるが佐吉は取り合わなかった。
ある日、丸総の手下が力ずくで卯之吉を引き取りに来たため、佐吉は争ううちに手斧で殺してしまう。
捨て身になった人間ほど強いものはないと悟った佐吉は、長年思いとどまっていた仁兵衛の仇を討ちに行く。

口入屋の相模屋政五郎の力添えもあり、無事に成川を討つ佐吉。

一年後。
仁兵衛の縄張りを継いだ佐吉は親分として貫禄も十分になっていた。
そこへ政五郎が卯之吉の母・お新を連れてやってくる。
曰く、今は芸者をしているお八重と一緒になって仁兵衛の二代目を継いでほしい、丸総に卯之吉を返してほしい、とのこと。
拒む佐吉だったが、卯之吉の将来のためと政五郎に説得され、別れを決心する。

翌日、佐吉は一生を旅人で過ごすつもりだと二代目を継ぐことも断り、政五郎と別れの盃を交わす。
辰五郎に連れられた卯之吉に見送られながら、佐吉は旅立っていく。

「やけに散りやがる桜だなぁ」

私のツボ

涙に理由は要らない

KNPC120は辰五郎との友情を軸に、KNPC202は佐吉の卯之吉への愛を軸としました。

佐吉が三下奴の時からの付き合いで、いわば身近でずっと佐吉を見守ってきた男・辰五郎。
彼との友情があったからこそ佐吉は親分になっても道を誤らなかったのだろうと思います。

KNPC202では、卯之吉との出会いから別れまでを軸に構成しました。

幕引きの佐吉が花道を去っていく絵は外せないとして、そこに至るまでのドラマを描きたかった。
親分との別れや政五郎との出会いなども重要なのですが、あまり欲張りすぎると散漫になってしまうので、佐吉と卯之吉のみに絞りました。
橋の袂で卯之吉をあやす佐吉は好きな場面。

佐吉という青年の成長譚を軸に、復讐物語や栄枯盛衰や親子の情愛などが織り込まれた物語。

御涙頂戴は苦手ですが、泣けるものは泣けるし、良いものは良い。
「北の国から」は何度見ても泣いてしまう。
ラーメン屋のシーンは必ず泣いてしまう。
心の琴線に触れるのに理由も説明もいらないのでしょう。

花道を引き上げる佐吉の表情の厳しさに、事情はなんであれ二人の人間を殺めた罪業を抱えて生きていく覚悟の重さが感じられるようで胸に迫ります。
本題の「両国絵八景」通り、江戸情緒あふれる舞台美術も美しい演目です。

うんちく

「荒川の佐吉」と言えば、のお約束うんちく。
15代目市村羽左衛門が「最初はみすぼらしくて、哀れで、最後にパァっと花の咲くような潔い男の芝居がしたい」と真山青果に頼んで書いてもらったものが「荒川の佐吉」。
初演は昭和7年(1932年)。

全然みずぼらしくないと感じるのですが、それはさておきまして、
さらに余談。
梨本宮伊都子妃は大の歌舞伎好きで、特に15代目市村羽左衛門がご贔屓でした。
晩年に書かれた自伝「三代の天皇と私」(講談社、1975年)にちょくちょく登場します。
上野松坂屋で羽左衛門にばったり会ってはしゃぐくだりなどが、華族らしいとても流麗な筆致で書かれていて面白いです。
何気なく読んでいた本に、突然よく知った名前が出てきたので驚きました。

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