描かれている人物
上段左:(左から)大高源吾、宝井其角
上段右:松浦侯
下段左:(左から)お縫、大高源吾
下段右:松浦侯
絵の解説
雪の両国橋。煤竹売りに身をやつした大高源吾と其角。
かつての弟子と師匠。
指おって太鼓を数える興奮気味の松浦侯
松浦邸に報告に来た大高源吾と、源吾に付き添うお縫
大高源吾を讃える松浦侯。
「褒めてやれ褒めてやれ」
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・松浦鎮信(まつうらしずのぶ)
吉良邸の隣に屋敷を構える平戸藩主。
軍学者山鹿素行のもとで赤穂の大石内蔵助と同門だった縁で、赤穂浪士の討ち入りを心待ちにしている。
なかなか討ち入りしないので、痺れを切らしている。
・宝井其角(たからいきかく)
俳人。大高源吾の俳句の師匠だった縁で、妹のお縫を松浦侯へ世話をした。
・お縫(おぬい)
大高源吾の妹。松浦侯の屋敷に腰元奉公にあがっている。
・大高源吾(おおだかげんご)
赤穂浪士。俳名は子葉(しよう)。
他、近習、中間などがいます。
あらすじ
元禄13年、師走13日の両国橋。
雪景色の中、俳人の宝井其角は、赤穂の浪人で俳句の弟子だった大高源吾と出会う。
煤竹売りに身をやつした源吾に其角は紋服を渡し「年の瀬や水の流れと人の身は」と詠じ、付句を求める。
源吾は「明日待たるるその宝船」と詠んで立ち去る。
翌日、松浦鎮信の屋敷では其角を迎え句会が催されていた。
その最中、松浦侯は突然、お茶を運んできた腰元のお縫に暇を出す。
其角が理由を問うと、自分(松浦侯)は赤穂浪士の仇討ちを応援していたが、いつまで待っても仇討ちがないので、源吾の妹であるお縫の顔を見るのも嫌になったと言う。
其角がふと大高源吾の付句のことを話すと、松浦侯は宝船とは討ち入りのことではないかとその真意を悟る。
まさにその瞬間、隣家の吉良邸から山鹿流の陣太鼓が響く。
松浦侯は指を折って太鼓の数を数え、討ち入りと知り大喜び。
助太刀せんと張り切って身支度を整え、馬にまたがる松浦侯。
家臣たちは必死に引き留めます。
そこへ大高源吾が討ち入りを報告に玄関先へとやってくる。
松浦侯が源吾に時世の句を求めると、
山をぬく 刀も折れて 松の雪
と源吾。
その忠義心と覚悟に胸打たれた松浦侯はお縫のことは任せよと言うのだった。
*『史記』を出典とすることわざ 抜山蓋世(ばつざんがいせい)を用いたもの。
山をも抜くほどの力と、世の中を覆い尽くすほどの精神力で仇討ちをした。もはや力尽き、あとは静かに命が尽きるのを待つのみ、といったような意。
私のツボ
野次馬代表
忠臣蔵の野次馬代表の松浦侯。
お縫に当たり散らす様、太鼓の音を指折り数えて座布団から降りてジリジリと膝で進む様、勇んで馬に乗り落馬しそうになる様、、、どこをとっても愉快でお茶目な殿様です。
松浦侯のご機嫌をとる”ごま近”こと、ごますり近習たちも可笑しく、平和な松浦侯のお屋敷です。
冒頭の寒々しい両国橋の光景と松浦侯の屋敷内の温かさや明るさの落差が、お取り潰しになった赤穂浪士たちの悲しさを際立たせます。
野次馬は気楽で良いものです。
と言って、能天気な松浦侯が鼻につくわけでも舞台を損なうわけでもなく、そこは芸の力によると言う大前提があるものの、育ちの良い殿様の無邪気な鷹揚さで討ち入りの悲惨さを和らげてくれます。
討ち入りという一大イベントと引き換えに、多くの命が散るわけで。
松浦侯の明るさがかえって淋しくなるような、でも松浦侯の破顔一笑が救いにもなり、味わい深い演目です。
ポストカードは起(大高源吾と其角の再会)承(もしかして討ち入り?!)転(討ち入り報告)結(褒めてやれ褒めてやれ)で構成しました。
秀山十種の内の一つ。
大好きな演目。
これからもいろいろな松浦侯を観ることができますように。
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