描かれている人物
天川屋義平
女房おその
絵の解説
討ち入りの武具が入った長持ちの上にどっかり座っての見得
「天川屋義平は男でござる」
〽おそのは一人小提灯
離縁して実家に帰ったおそのだが、息子を案じて帰ってきた
あらすじ
「仮名手本忠臣蔵」十段目「天川屋」
主な登場人物と簡単な説明
・天川屋義平(あまがわやぎへい)
堺の船商人。塩谷家の御用商人だった。
討ち入りに必要な武具一式を整え、大坂から鎌倉まで輸送する役を引き受けている。
・お園(おその)
義平の女房。父・大田了竹は斧九太夫と通じている。
・由松(よしまつ)
義平とお園の息子。
他、丁稚伊吾、大田了竹、大星由良之助、千崎弥五郎、矢間重太郎、大鷲文吾、竹森喜多八などがいます。
あらすじ
堺の商人・天川屋義平は、かつて塩谷家お抱えの商人だった。
町人ながら塩谷家に恩義のある身として、密かに討ち入りの武具を用意していた。
秘密が漏れないよう、妻は離縁して実家に戻し、使用人もほとんど解雇している。
ある日、武具調達の嫌疑がかかって捕手が押し入るが、義平は口を割ろうとしない。
一人息子の喉に刀を突きつけられても、義平は長持ちの上にどっかと座って動じません。
長持ちの中から由良之助が登場し、義平を試すための仕込みだったと詫びる。
一方、息子会いたさに堺の家に戻ってきたお園。
仇討ちを成功させるため、心を鬼にして追い返す義平。
そこへ覆面の男がお園の髪を切って持ち去る。
義平は由良之助たちに手打ち蕎麦を振る舞う。
(省略される場合があります)
由良之助は、もう出発の時間と去り際に義平に引き出物を渡す。
包みの中には、お園の髪と櫛簪(くしこうがい)、義平が書いた去り状が入っていた。
お園が髪を切った尼として息子の乳母になれば良い。
髪が伸びる頃には仇討ちも終わっているから復縁すれば良いと語る由良之助。
由良之助は、義平の義心を讃えて討ち入りの合言葉を「天(あま)」と「川」にすると約束し、浪士たちと共に鎌倉へ旅立つ。
私のツボ
なぜか知っている名台詞
滅多に上演されない十段目ですが、その理由は時間的余裕がないこと第一に挙げられますが、資料を見ると「作品としてつまらないから上演されない」という評をよく目にします。
つまらない、と言われると余計に見たくなるというもので、いつか上演されないかと楽しみにしていました。
おりしも、2016年10月から12月にかけて上演された国立劇場開場50周年記念の通し狂言「仮名手本忠臣蔵」でようやく見ることができました。
感想は、仮名手本忠臣蔵をフルバージョンで見たという満足感に尽きます。
「山科閑居」のように、十段目だけスピンオフで忠臣蔵外伝の世話物として上演されたらまた味わいが違うのかもしれません。
義平もお園も魅力的な人物なのですが、うーん。
七段目や九段目のようなヒリヒリする切迫感が無いからでしょうか、手打ち蕎麦を食べるのは、赤穂浪士が討ち入り前に蕎麦を食べたという逸話から来たものなのでしょうけれど、やや唐突感が否めず、代表で三人だけ食べるというのも中途半端でモヤッとします。
それから由良之助はいつの間に長持ちの中に入った? と色々と疑問が出てきてしまいます。
無理な展開は歌舞伎のお約束、で片づけられないモヤモヤが余韻として残ります。
ただ、”滅多に上演されない”という希少さが勝ってしまうので、また上演されたら観に行くと思います。
そんな天川屋義平ですが、なぜかこの名台詞だけは知っていました。
歌舞伎を見るようになるずっと前、それこそ子供の頃なのでしょうけれども、どこで知ったのかいまだに分かりません。
思えば、弁天小僧の有名なセリフも源氏店のセリフも、なぜか知っていました。
気がつかないうちにスーッと記憶に入り込む、それが歌舞伎の古典たる所以なのだろうと思います。
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