KNPC38 「仮名手本忠臣蔵」〜六段目

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC38:早野勘平
KNPC41:(左から)おかる、勘平

絵の解説

奪った財布を確認し、おかるの父を撃ち殺したかと青ざめる勘平。

原画

別れを惜しむおかると勘平。

原画

おまけ
同じく別れを惜しむおかると勘平。

原画

あらすじ

「仮名手本忠臣蔵」六段目

主な登場人物と簡単な説明

・早野勘平(はやのかんぺい)
塩谷判官の元家臣。おかるは恋人。
恋人おかるの郷里・山崎の実家に身を寄せている。
猟師になったが、帰参の時節を待っている。

・おかる
顔世御前の元腰元。恋人の勘平と二人、山崎の実家で暮らしている。
勘平には内緒で、五年百両で身売りし祇園で働くことになっている。

・与市兵衛(よいちべえ)
おかるの父。
祇園で身売りの話をまとめてから帰る途中、定九郎に殺される。

・おかや
おかるの母。

・一文字屋お才(いちもんじやおさい)
祇園、一力茶屋の女主人。
伴人(女衒)の源六と共におかるを迎えにきた。

他、源六、千崎弥五郎、不破数右衛門、猟師仲間がいます。

あらすじ

勘平が帰宅すると、祇園町から来た男女がおかるを駕籠に乗せて連れて行こうとしていた。
勘平は、おかるが身を売って金の工面をしたことを初めて知る。
そして一文字屋お才が、これと同じ財布に前金50両を入れて与市兵衛に渡したと言って縞柄の財布を出す。
その財布を見て愕然とする勘平。
昨晩、猪と間違えて撃ってしまった男の懐に入っていた財布と同じもの。
与市兵衛を殺してしまったと思い込んだ勘平は、その場をとりつくろい、おかるを送り出すのだった。

そこへ与市兵衛の猟師仲間が、与市兵衛の死体を運んでくる。
驚き嘆くおかやだが、驚かない勘平を不審に思って問い詰める。
ついに勘平の懐から血のついた縞の財布をつかみ出し、責め立てるのだった。
そこに千崎弥五郎と不破数右衛門(原郷右衛門の場合もある)が勘平の出資金を返しに来る。
不忠者は仇討ちに参加させられないと由良之助が判断したのである。
おかやがその金は舅を殺して奪った金だ、と二人に訴え、勘平は亡君の恥と厳しく叱責される。

勘平は脇差しを腹に突き立て、涙ながらに昨夜の出来事を語る。
弥五郎が死体をあらためると、死因は刀傷であった。
そして二人は道すがら、定九郎の死体があったことを思い出す。
はからずも、勘平は与市兵衛の仇を討ったことになり、汚名は晴れた。
勘平は仇討ちの連判状に加えられ、おかやに見守られて息絶えるのだった。

私のツボ

東西の型

六段目の勘平は、上方、団蔵型などいろいろありますが、三代目尾上菊五郎から整理して五代目尾上菊五郎が完成した音羽屋の型にほぼ統一されています。
音羽屋の型をベースに、演じる人によって適宜アレンジが加えられます。
かぶきねこづくしで描く場合は、基本的には東京型で描いていますので、六段目も音羽屋型で描いています。
煙管を持った右手を高く上げて、その陰で懐の財布をこっそり確かめるところは、流れるような動作でとても美しく絵画的です。
美しい動作とは裏腹に、勘平が「親父様を殺してしまったのか」と絶望する瞬間。

上方と団蔵型の場合、勘平は縞の日常着に着替え、切腹した後に後ろからおかやに黒い紋服を着せ掛てもらって落ちます。
加えて上方は後半の勘平が背中を向ける場面が多く、そのかわりにおかやが手前に出てきたりと衣装以外でも演出が異なります。

東京型は美意識、上方型は写実的と言われますが、両型の演出の違いによる効果は「仮名手本忠臣蔵」では六段目と続く七段目が特に顕著です。
六段目に限って言えば、東京型は”二枚目の青年の悲劇”、上方は”若さゆえの短慮が招いた哀れな死”が描かれているように感じます。
どちらが良いかは好みが分かれますが、哀れさは上方の方が強いように思います。

六段目のおかるは東京型も上方も違いはなく、紫色の綿帽子に石持(こくもち)の衣装を着てどちらも世話女房のようにまめまめしく働いています。

まさかこれが今生の別れになるとは、おかるも勘平も夢にも思っていません。
勘平の頭の中は、舅を殺してしまったことでいっぱいで、おかるとの別れを惜しむ余裕はなく、「まめでいやれ」と声をかけることしかできません。
寄り添いながらも、思うことは全く別々な恋人同士という哀しい構図。

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