KNPC82、192 寺子屋(てらこや)〜菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC82:(左から)戸浪、源蔵、松王丸、春藤玄蕃
KNPC192:
上段左:戸浪、源蔵
上段右:涎くり与太郎、菅秀才
下段左:千代、小太郎
下段右:松王丸

絵の解説

KNPC82:「菅秀才の首に相違ない」
首実検を済ませ、言い切る松王丸。
息を飲む源蔵夫婦、得意気な春藤玄蕃
背後は松王丸と春藤玄蕃の部下の捕手たち。

原画

KNPC182:
小太郎を菅秀才の身代わりにするという決意を聞き、涙する戸浪。
源蔵「せまじきものは宮づかえじゃなぁ」
源蔵の羽織は俳優さんによって異なる場合があります。着付は茶系が多いようですが、これも一定ではないようです。

戸浪、源蔵(原画)

真面目に勉強する子供達と菅秀才。
この後、涎くりが悪ふざけをして菅秀才にたしなめられる。

涎くり、菅秀才(原画)

小太郎「かかさま、わしも一緒に行きたいわいのう」
隣村まで用足しに行くと立ち去ろうとする母・千代に向けての小太郎のセリフ。
母子、今生の別。
千代の帯は、俳優さんによって異なります。
梅模様の帯で描きましたが、無地にするよう修正が入りました。

千代、小太郎(原画・修正前)

「無礼者め」
首を刎ねる音が聞こえ、動揺した戸浪が松王丸とぶつかっての一言と見得。
松王丸もまた動揺を押し隠している。
松王丸の衣装は黒地に雪持松ですが、俳優さんによってグレー地になる場合もあります。
病気療養中という体なので、紫の病鉢巻にフサフサとした百日鬘(ひゃくにちかづら)です。

松王丸(原画)

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・武部源蔵(たけべげんぞう)
菅丞相の家来で書の弟子であったが、戸浪との不義を理由に勘当される。
芹生(せりょう)の山里で寺子屋を営む。
密かに菅秀才を匿っている。

・戸浪(となみ)
源蔵の妻

・菅秀才(かんしゅうさい)
菅丞相の息子。

・松王丸(まつおうまる)
三つ子の次兄。
藤原時平に仕えている。
菅丞相の子息菅秀才の顔を知っていたため、首実検の役目を命じられる。

・千代(ちよ)
松王丸の妻。

・小太郎(こたろう)
松王丸と千代の子供。

・春藤玄蕃(しゅんどうげんば)
時平の家来。

他、涎くり与太郎、百姓たちがいます。

あらすじ

「菅原伝授手習鑑」全五段のうち、四段目「寺子屋」
京の山里で武部源蔵・戸浪夫婦は寺子屋を営み、菅丞相の一子・菅秀才を匿っている。
ある日、源蔵が庄屋に呼ばれて出ている間に、小太郎という子が母に伴われ、弟子入りする。
小太郎の母は隣村で用事を済ませてくるからと小太郎を置いて立ち去る。

ーーここまで「寺入り」。省略されることが多く、下記の「源蔵もどり」からの上演が多い。

源蔵が青ざめた顔で戻ってくる。
庄屋で時平の家臣・春藤玄蕃と松王丸から菅秀才の首を渡せと命じられたのだ。
源蔵は小太郎を菅秀才の身替わりにすることを決意する。

玄蕃と松王丸が検分に現れ、源蔵は奥の部屋で小太郎の首を打つ。
菅秀才の顔を知る松王丸が首実検し、菅秀才の首だと断言、一行は首桶を持って立ち去る。
そこへ千代が現れ、驚いた源蔵が切り掛かるが、松王丸が再び姿を見せる。
時平に仕える松王丸だったが、本心は菅丞相の味方で、覚悟の上で我が子を身替わりにしたと明かす。
さらに松王丸に救われた園生の前も現れ、菅秀才と対面。
松王丸夫妻は白装束になり、小太郎の野辺送りをする。(いろは送り)
引っ張りの見得で幕。

私のツボ

極限状態と苦悩のアンサンブル

「寺子屋」の考察は専門家にお任せするとして、極限状態と苦悩のアンサンブルというのが私なりの感想であり見どころです。
前半、首実検までが極限状態のアンサンブル。
緊張度が高く、極限の向こう側の狂気がチラつく躁状態の空気。
後半、松王丸の述懐の場面は苦悩のアンサンブル。
それぞれの苦悩が重なり合い、さらに重く暗く沈殿していく。
菅秀才の甲高い声が一堂を悲愴な現実に引き戻し「いろは送り」で幕。

というわけで、KNPC82では極限状態がピークに達する首実検の場面を描きました。
さすがに生首をまじまじと見つめる松王丸を描くのは憚られますので、その直後、首桶にしまってのち、「相違ない」の場面。
後ろに控える捕手たちが与える圧も重要です。

KNPC192は、それぞれの苦悩がテーマ。
戸浪と源蔵は、出会ったばかりの子(小太郎)の命を奪わねばならない苦悩。

松王丸は、動揺を隠すための見得。
首が刎ねられる音を聞いて、ついに自分の計画が現実のものとして実行され「もはや後戻りできない」と愕然とします。一瞬ですが、この瞬間は小太郎の父になる。
その後、戸浪とぶつかって”時平の家臣である松王丸”に戻る。
その切り替えがこの見得なのだと思います。

千代は、最後に見せる母の愛。
今生の別れであることを小太郎に悟られてはなるまいと優しい微笑みを胆力で浮かべる姿。
この場面の千代が一番母性愛に溢れて美しく物悲しいのでここを描きました。
「寺入り」が省略される場合はこの商品は置けないのですが、これはどうしても描きたかった。

「寺子屋」の癒し担当、涎くり与太郎。
戸浪に叱られて立たされる場面、菅秀才に叱られる場面、父をおぶって花道を引っ込む場面と、涎くりだけで一枚ポストカードが出来てしまいます。
暗い物語の中で、無邪気な笑いを提供してくれる貴重な存在です。

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