KNPC02, 03, 90 京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC02 花子
KNPC90 鐘入りした花子と所化たち
KNPC03 花子

絵の解説

KNPC90 鐘入りした花子と所化たち

原画

KNPC02 烏帽子 スキャンデータ
赤地に霞に枝垂桜文様

スキャンデータ

KNPC03 恋の手習 スキャンデータ
藤色地に霞に枝垂桜文様

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あらすじ

道成寺の鐘の供養に現れた美しい白拍子花子。
清姫の一件から女人禁制になっていた道成寺。
奉納の舞を舞うという条件で寺内に通され、
花子は厳かに舞い始めます。
華やかな踊りを披露するうちに形相がみるみる変わり、
鐘の中に飛び込む花子。
実は花子は清姫の亡霊だったのでした。

鐘入りの後、隈取りをとった後ジテとなり、
花道から荒事の押戻し(おしもどし)が出て終わる場合もあります。

私のツボ

色とりどりの舞台

一時間近くを一人の女方が踊り抜く女方舞踊の大曲です。
道成寺伝説を踊るのではなく、女の恋心を踊ります。

八回も衣装が変わり、小道具も多く、
大変華やかで賑やかな舞踊です。

鐘の緑、紅白の綱、桜の淡いピンク、赤毛氈。
色彩が豊かで、春爛漫といった舞台です。
道成寺の長唄の裃は桜模様ですが、
これは黒衣のように背景の桜と同化するために考案された衣装です。
初めて観た時は、なんとオシャレな裃だろうと思いました。

花子の振袖がヒラヒラと舞い、ふわふわと夢心地になる舞台です。
所化たちの踊りもあります。

おまけ解説ー安珍清姫伝説

奥州白河(福島県)の僧侶安珍は毎年熊野に詣でます。
真砂(まなご・和歌山県)にある庄司の館を定宿としていました。
その館の娘の清姫は安珍に一目惚れし、結婚を迫ります。

当惑した安珍は、熊野を詣でた帰りに立ち寄ると約束して逃げます。
欺かれたと知った清姫は怒って安珍を追いかけます。

安珍は日高川を渡し舟に乗って逃げます。
怒りに燃えた清姫は川に飛び込むと大蛇となって川を泳ぎます。

日高川を渡った安珍は道成寺に逃げ込み、釣鐘の中に隠れます。
道成寺にたどりついた清姫は、安珍が隠れた釣鐘に巻きつき、
火をはいて鐘もろとも安珍を焼き殺してしまいました。

正気に戻った清姫は、安珍を焼き殺してしまったこと、
蛇体に変化してしまったことに絶望し日高川に身を投げるのでした。

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蛇の化身といえば上田秋成の「雨月物語/蛇性の婬」。
舞台は和歌山県新宮市、主人公の男が惚れる女の名前が真女子(まなご)。
もともとの原典は明の小説ですが、安珍清姫伝説も織り込まれています。

「雨月物語」は小説も大好きですが、溝口健二の映画も良いです。
映画は原作とはやや味わいが異なり、怪異譚より人間の業が主題になっていますが、湿り気を帯びた不確かな感触が観る側を不安にさせる名画です。

本題に話を戻します。
「京鹿子娘道成寺」は華やかで賑やかな演目ですが、その華やかさは花子の怨念の反動なのかもしれません。
ただ美しいだけでは飽きてしまいます。
「道成寺」の魅力は、背景にある花子の心の闇あってこそなのです。

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