KNPC77 加茂堤(かものつつみ)〜菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤丸枠:(左から)苅屋姫、桜丸、斎世親王、三善清行
下:八重

絵の解説

苅屋姫:斎世親王に会って恥じらっている。
桜丸:斎世親王の書き置きの短冊を手にして思案顔。
斎世親王:苅屋姫に会って恥じらっている。
三善清行:密会現場をおさえたと勇み立っている。

原画

「エヽ、どんくさい」
苅屋姫と斎世親王を探しに行った桜丸の代わりに牛車を引く八重。
舎人の衣装である白張を羽織っています。
仰向けに倒れているのは、桜丸が蹴散らした清行の手下。

原画

あらすじ

「菅原伝授手習鑑」全五段のうち、一段目「加茂堤」

主な登場人物と簡単な説明

・桜丸(さくらまる)
斎世親王の牛飼舎人(うしかいとねり)。
梅王丸、松王丸とは三つ子の兄弟で、桜丸は末弟。

・八重(やえ)
桜丸の妻。

・苅屋姫(かりやひめ)
菅丞相の養女で、実母は丞相の伯母覚寿。
斎世親王と恋に落ち、それが父・菅丞相の失脚の原因となってしまう。

・斎世親王(ときよしんのう)
病気の醍醐天皇の弟宮。
恋人の苅屋姫との逢瀬を目撃され、騒ぎになったことから姫と共に逃げる。

・三善清行(みよしのきよつら)
藤原時平に従う公家。菅丞相を陥れようと粗探しに余念がない。

あらすじ

これまでの経緯
※歌舞伎ではほぼ上演されませんが物語の背景が分かるので簡単にまとめます。
1966年、1977年と国立劇場で上演されました。

「大序 大内山」
平安時代、延喜帝こと醍醐天皇の代。
渤海国から使いの僧が訪れ、帝の姿を描かせて欲しいと願い出る。
帝は病気療養中であるため、左大臣・藤原時平が帝の衣装を着て代わりになろうと自ら提案。
時平による謀反の兆しを見抜いた右大臣・菅丞相は時平を諌め、帝の弟・斎世親王に代理をつとめさせる。
怒った時平は、親王から帝の装束を奪おうとするが、菅丞相に止められる。
その後、菅丞相は帝から筆法伝授の命令が下される。

一段目 加茂堤
※「加茂堤」前半(ほぼ省略されます)
加茂明神で天皇の病気平癒の祈願が行われる。
梅王丸は菅丞相の、松王丸は藤原時平の供をしてやって来る。
式典の間、ひと休みせんと加茂堤に二人が来ると、桜丸の牛車があった。
牛車のそばで桜丸を待つ二人は、互いの主人自慢で口論になるが、梅王が丸く収める。
近々、父の七十の祝いがあるので妻を連れて三兄弟で集まろうという話になる。
そこへ桜丸がやって来て、儀式の様子を見に行くよう梅王と松王を促し、二人はその場を立ち去る。

ーーー通常、ここからーーー
周囲に誰もいないことを確認し、桜丸が合図をすると、八重と苅屋姫が現れる。
牛車の中には式典を抜け出した斎世親王が乗っており、苅屋姫としばしの逢瀬を楽しむ。
そこへ三善清貫が詮議に来たので、親王と苅屋姫は駆け落ちしてしまう。
桜丸は牛車を八重に任せて二人の行方を探しに行く。

私のツボ

のんびり

「加茂堤」は単体ではほとんど上演されませんが、のどかで大好きな場面です。
ゆったり流れる鴨川の眺望、紅白の梅が咲き、衣装も華やかで色とりどりで、のんびりした春の陽気が感じられる舞台です。
八重の若草色の衣装が春らしく、牛との絡みが面白いのでその場面を描きました。

悪役の三善清行は、半道敵とまでは行きませんが腰巾着感あふれる端敵で、個人的には好みの役どころです。
この後、全員に待ち受ける悲劇の甚大さを思うと、清行の軽薄な存在感は釣り合わないような気もしますが、現実はそんなものかもしれません。

あらすじの箇所で書いた「加茂堤」の前半、松王丸と梅王丸のくだりは上演時間の兼ね合いで省略されるようです。
私は77年の国立劇場の上演を映像で見ましたが、仕丁姿の松王丸が新鮮でした。
事前に申し込みが必要ですが国立劇場の視聴覚室で視聴できます。

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