KNPC123 土蜘(つちぐも)

かぶきねこづくし

描かれている人物

上段左:智籌
上段中央上:音若
同 下:榊
上段右上:胡蝶
上段右下:頼光

中央:平井保昌、土蜘の精

下段左:(左から)太郎(たろう)、次郎(じろう)、藤内(とうない)
下段右:土蜘の精

絵の解説

智籌:畜生口の見得
音若:智籌の正体を見破る音若
榊:土蜘退治が成就するよう庭に祀られている石神に奉納する踊りを舞う
胡蝶:慰みにと秋の都の名所の様子を舞う
頼光:名刀膝丸で智籌に対峙する頼光

原画

蜘蛛の糸を繰り出す土蜘の精

原画

間狂言の番卒の踊り
左から、太郎、次郎、藤内

原画

住処である古塚にいる土蜘の精(隈取修正前)

原画(修正前)

あらすじ

河竹黙阿弥 作

主な登場人物と簡単な説明

・智籌(ちちゅう) 実は 土蜘の精(つちぐものせい)
日本を魔界に堕とさんため、頼光の命を狙う物の怪。
比叡山の僧に化けて頼光の館に入り込む。

・源頼光(みなもとらいこう)
藤原摂関家の警護の責任者。ふと引いた風邪からマラリアにかかって療養中。
大江山酒呑童子を退治したことでも有名な、平安時代の武将。

・平井左衛門尉保昌(ひらいさえもんのじょうやすまさ)
頼光の家来。

・胡蝶(こちょう)
頼光の侍女。

・音若(おとわか)
頼光の小姓。

・榊(さかき)
巫女

・四天王(してんのう)
渡辺源次綱(わたなべのげんじつな)
坂田主馬之丞公時(さかたしゅめのじょうきんとき)
碓井靭負之丞貞光(うすいゆきえのじょうさだみつ)
卜部勘解由季武(うらべかげゆすえたけ)

他、番卒、四郎吾などがいます。

あらすじ

上の巻
源頼光の館。
病気療養中の頼光は、回復の兆しが見えて、見舞いにきた平井保昌と対面する。
侍女の胡蝶が薬を届けに来、頼光の求めに応じて舞を披露する。

夜、比叡山の智籌と名乗る怪しげな僧があらわれ、病気平癒の祈祷をする。
小姓がふと障子に写った僧の影を見咎めると、智籌は自分の正体を仄めかし、頼光に蜘蛛の糸を投げかけて襲いかかる。

頼光は家宝の名剣膝丸を抜いて斬りつけるが、土蜘の精は闇に紛れて立ち去る。
駆けつけた保昌に、頼光は四天王と共に土蜘の精を退治するよう命じる。

間狂言
頼光館の庭。
怯えた番卒たちが、庭に祀られている石神様に祈ろうと、巫女舞を披露する。

下の巻
保昌と四天王は、土蜘の血痕を追って住処である古塚を発見。
古塚を壊すと、土蜘の精がすさまじい形相であらわれ、日本全国を魔界にしようとし、その手始めに頼光を襲ったことを明かす。
土蜘の精は蜘蛛の糸を放って四天王たちを惑わすが、ついに斬られる。

私のツボ

闇を引き立てる華やかさ

明治14年初演と比較的新しく、能の重厚さと歌舞伎の華やかさがバランスよくミックスされた舞踊劇です。
間狂言を挟んで上下二巻の構成。
上の巻では智籌が不気味な怪しさを静かに醸し、下の巻では荒々しい形相の土蜘の精が動きのある怪しさを炸裂させます。
どちらも土蜘の精の暗さ、内面の闇が重く腹に響きます。
日本を魔界に堕とす、という陰謀も痺れます。
よくある天下をとるとか、お家乗っ取りの企みが小さく見えてしまいます。

そんな土蜘の暗い魅力を引き立てるのが、源頼光とその郎党なのですが、この頼光は歌舞伎でよく登場します。
正しくは、頼光と四天王と平井保昌のチーム頼光です。
「大江山酒呑童子」では大江山の鬼退治、「土蜘」は「蜘蛛の拍子舞」や「蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)」など、さまざまなバリエーションがありますが、チーム頼光は必ず出てきます。
鬼退治の豪傑・頼光というポジションですが、衣装や佇まいからして武将よりも貴族のようです。
頼光は実在する人物ですが、清和源氏の嫡流・莫大な財力・藤原道長の側近という、朝廷中枢とかなり密接な立場にあったので、貴族のように描かれるのかもしれません。

話を「土蜘」に戻します。
土蜘の呪いによって頼光はマラリアにかかっていますが、そもそも恋人を訪ねて朝帰りの途上で萩に見とれて体が冷えて風邪を引いてこじらせたという、風雅ではありますが脇が甘いというか、武将にしては呑気なものです。

一方、土蜘蛛は、「古事記」にも出てくる古い言葉で、土着の先住民族を意味します。
大江山の鬼も、土着の先住民あるいは反中央勢力としての賊を意味するという説もあります。
土蜘蛛も大江山の鬼も虐げられる民であり、それを征伐する権力側のチーム頼光という図式が見えてきます。
そう思うと、この舞踊劇も中世の闇を垣間見るようで、より一層暗さが増します。

というわけで、単なる化物退治の舞踊劇ではなく、圧倒的な中央権力に負けてしまう反権力という構図が見えますので、ほぼ全員を登場させました。
華やかな頼光サイドの登場人物たちが、一人戦う土蜘の悲しさを際立たせます。
黙阿弥がそこまで意図して書いたのかは分かりませんが、ある意味、普遍的なテーマだなと思います。

修正箇所

汎用性の高い隈取りに修正。
修正前は、播磨屋さんの隈取りだったようです。

修正パーツ(原画)

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