描かれている人物
赤枠上段:(左から)藤娘、鷹匠、座頭、船頭
赤枠中段左:外方と唐子たち
赤枠中段右:鯰
赤枠下段:犬
下:(中央左から)弁慶、鬼、矢の根の五郎
絵の解説
唐子と外方
※衣装が異なる場合があります。唐子の人数も変わる場合があります。
犬、鯰
犬は女形バージョン。立役の場合は化粧がやや異なります。
藤娘
鷹匠
座頭
船頭
(左から)弁慶、鬼、矢の根の五郎
鐘の背後は毛槍奴(けやりやっこ)
景色は琵琶湖です。
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・藤娘、鷹匠、座頭、船頭、鬼
一人五役早替わりで務める。
・外方(げほう)
外法とも書く。寿老人のこと。
・唐子(からこ)
寿老人の付き人。
他、鯰、犬、弁慶、矢の根の五郎、毛槍奴などがいます。
あらすじ
河竹黙阿弥 作
大津絵の人物が次々に替わり踊りを舞う変化舞踊。
桜が満開の大津の三井寺では、鐘供養が行われている。
そこへ大津絵から抜け出した外方が唐子たちとやってくる。
唐子たちが鯰を捕まえようとするが、鯰は上手へ逃げていく。
藤娘がやってきて鐘を拝ませてほしいと頼む。
女人禁制の寺だが、同じ大津絵に描かれた仲間ということで外方は参拝を許す。
唐子たちが藤娘の指の本数を数え、鬼ではないと確認。
踊りを所望され、藤娘は艶やかな舞を披露。
続いて鷹匠、座頭、船頭が登場し、それぞれ踊りを見せる。
最後に藤娘が現れ踊っていると、突然、鐘が落ちてきて藤娘が閉じ込められる。
そこへ武蔵坊弁慶が現れ、念仏を唱えて鐘を釣り上げてみると、そこから出てきたのは鬼。
鬼が暴れているところへ矢の根の五郎が現れ、弁慶と共に鬼と大立ち回りを見せ、鬼を退治する。
私のツボ
大津絵
大津絵は、江戸時代に三井寺の門前町として栄えた近江国大津で売られた土産の絵。
お土産やお守りとして人気があったもの。
出てくる役柄は、皆、大津絵の代表的なモチーフです。
初演は1826年(文政9年)、「傾城反魂香」の大切(おおぎり)として。
「傾城反魂香」の浮世又平は大津絵の絵師で、又平が描いた大津絵から絵が抜け出したという趣向でした。
又平の描いた絵が、手水鉢を通り抜けるほどですから、絵から抜け出して踊るのも納得です。
道成寺にのっとった構成で、花子が藤娘、唐子が所化に該当します。
早替が目まぐるしく、常磐津と長唄の共演、押し戻しも弁慶と矢の根の五郎二人掛かりと、贅沢な踊りです。
盛り込み過ぎの感もありますが、そこが上方らしいのかもしれません。
それに伴い、欲張った絵になりました。
CAT FISH
私が子供の頃、大切にしていたのがピンクの鯰のぬいぐるみで、毎晩一緒に寝ていました。
物心ついた時にはすでに隣にあり、その鯰がどこからどうやって来たのか家族の誰も知らないという、謎の鯰でした。
リアルな鯰ではありませんが、可愛いわけでもなく、何かのキャラクターなわけでもなく、今思うとなぜ商品化したんだろうと不思議でなりません。
細いゴム紐のひげが可愛かったのですが、早い段階で千切れました。
そんなわけで鯰には愛着があったので、「大津絵道成寺」の鯰も長年の愛を込めて描きました。
むしろ、この絵の主役と言っても良いかもしれません。
唐子たちが「この鯰を捕まえて食べてしまおう」というようなことを言って絡んでくるのを、なんとかかわして逃げていく鯰がかわいいです。
歌舞伎の動物は、「忠臣蔵」の猪といい、「先代萩」のネズミといい、手作り感が溢れています。
江戸時代ならいざしらず、現代ならばそれなりに本物らしくあつらえることができるのでしょうが、そこを敢えてしない歌舞伎のセンスが私は大好きです。
「忠臣蔵」の猪は、わりと深刻な雰囲気の場面に出て来ますが、そのユーモラスな佇まいと動きがホッと一息つかせてくれます。
ホッとひと息つかせる必要はおそらく無くて、むしろ猪のせいで空気が壊れかねんという感想もあるかもしれませんが、必要以上に写実に頼らないのが歌舞伎の良さだと私は思っています。
ちょっとした愛嬌とユーモアとも取れますし、重要なのは大道具のリアリティではなく、それがさも本物のように感じられるような芸の力なのだと解釈しています。
変拍子の音楽のようで、観始めの頃は違和感がありましたが、観るにつけ癖になります。
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