KNPC147 新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)〜魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)

かぶきねこづくし

描かれている人物

中央:宗五郎
左上から時計回りに:
左上(1)鳶吉五郎 (2)宗五郎、菊茶屋女房おみつ、菊茶屋娘おしげ(3)おなぎ(4)酒屋丁稚与吉、奴三吉(5)磯部主計之助(6)おはま、宗五郎、岩上典蔵、浦戸十左衛門(7)女房おはま(8)宗五郎父太兵衛

絵の解説

原画

中央:酒に酔って完全に出来上がった宗五郎。花道の引っ込み。
(1)賑やかな祭囃子と裏腹に、沈み込む宗五郎の家。
芝明神のお祭りの賑わいを表したかったので、祭姿の鳶吉五郎。

原画(部分)

(2)弔問に訪れる菊茶屋の母娘、悲しみを堪える宗五郎
(3)真相を告げるおなぎ。やや興奮しているのか尻尾がまっすぐになっています。
(4)おなぎが届けた酒を酒屋から受け取る小奴三吉。

原画(部分)

(5)己の過ちを認め、謝罪をする磯部主計之助
(6)酔いが醒め、状況が飲み込めない宗五郎と平謝りのおはま、憤る岩上、冷静な家老・浦戸十左衛門

原画(部分)

(7)宗五郎に酒をつぐおはま
(8)磯部邸に乗り込む息子を止めようとする父太兵衛

あらすじ

河竹黙阿弥 作

主な登場人物と簡単な説明

・宗五郎(そうごろう)
棒手振りの魚売りだったが、妹・お蔦の奉公先から拝領したお金のおかげで魚屋を構えている。
酒乱なので神様に禁酒を誓い、酒を断っている。

・おはま
宗五郎の妻

・太兵衛
宗五郎の父

・磯部主計之助(いそべかずえのすけ)
旗本。宗五郎の妹・お蔦の妾奉公先の主人

他、三吉、岩上典蔵、浦戸紋三郎などがいます。

あらすじ

序幕 芝片門前魚屋内の場
芝片門前にある魚屋宗五郎の家。
妾奉公先の磯部主計之助に不義の咎で手討ちにされた宗五郎の妹・お蔦を皆で弔っていた。
そこへお蔦の召使いだったおなぎが弔問にやってきて、お蔦に横恋慕している用心の岩上典蔵の讒言であったことが明かされる。
真相を知った宗五郎は悲しみと憤りのあまり、おなぎが持ってきた酒を飲み始める。
酒乱で断酒していた宗五郎だったが、酒樽の酒を最後の一滴まで飲み干してしまう。

酔った宗五郎は、皆の制止を振り切って磯部の屋敷へと走っていく。

二幕目 磯部屋敷玄関の場
磯部邸に暴れ込んだ宗五郎は、岩上らに縛り上げられるが、家老の浦戸十左衛門に救われる。

磯部屋敷庭先の場
良いが醒めた宗五郎は、後を追ってきたおはまから一部始終を聞いて面目ない様子。
そこへ磯部が現れ、お蔦を手討ちにしたことを詫びる。
加えて、宗五郎に弔慰金を与え、岩上も直々に成敗すると約束。
宗五郎は胸のつかえが下り、磯部に感謝する。

私のツボ

アンサンブルの妙、やらかした一枚

おそらく、かぶきねこづくしの中で、一番欲張った絵です。
枠によるコマ割りで構成する場合、監修によって修正が入った場合を考慮して、一枚絵で描かずにコマごとに描き、最終的にデジタル処理で構図を組み立てる場合が多いです。
初期の頃はコマ割りの構図でも一枚絵で描いていましたが、何かしら修正が必ず入るので、個別に描くようになりました。
作業効率は大切です。仕上がりの完成度にも影響します。

それが何を思ったのか、この細かいコマ割りを一枚絵で描いてしまったのが、この魚屋宗五郎。
おまけに登場人物が多い。
我ながら、やらかした一枚だと思います。

なぜこうなったかと言いますと、まずこの演目のキモはアンサンブルの妙であること。
あらすじだけ文字で読むと、謝ってもお蔦は帰ってこないのよ!と「結局、江戸時代における庶民は金で言いくるめられる悲しい身分なのか」とあらぬ方向へ解釈が進みかねません。
ですが、舞台で見ると、悲しい話ですがなぜかスッキリ楽しく、また見たいとなってしまいます。

祭囃子で賑やかな外の様子と打ち沈んだ宗五郎の家の対比、
礼儀正しく弔問を受ける宗五郎がだんだん酒に酔って人が変わっていく様、
オロオロする周囲の人間たち、
そして磯部邸へ乗り込んで、酔が醒めてからの神妙な宗五郎。
テンポ良く物語が進み、誰ひとり場面ひとつ物語を進める上で欠かせない。

この演目全体の絶妙なアンサンブルを絵で表したいと思って、一枚の絵で描いたのだろうと思います。
多分、絵の構図を考える前にDVDで観て、こいつぁどこも欠かせねぇや!とにわか江戸っ子になってしまったのだと思います。

なお、随分と監修のお手を煩わせたようで、今では描くにあたって厳密な場面制限、人数制限が設けられています。

猫の行方

おなぎによると、
ある晩、お蔦が愛猫を探しに奥庭の弁天堂まで探しに出たところを岩上典蔵に口説かれ、その場は浦戸紋三郎に助けられます。
が、かえって岩上に紋三郎との不義を言い立てられてしまいます。
猫の行方はわかりませんが、屋敷の敷地内にいると信じたい。
お蔦は良い人であろうし、きっと猫は屋敷の誰かに保護されて大切に育てられているでありましょう。
絵とは全く関係ありませんが、この演目を見るたびに、猫は大丈夫だったかなと思ってしまうのでした。

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