「怪談 かぶきがわかるさがしもの絵本2 」講談社刊

かぶきねこづくし

絵の解説

「東海道四谷怪談」
またしても傘貼りをする伊右衛門。

原画

「獨道中五十三驛」
化け猫

原画

「怪談牡丹燈籠」
幸手堤。お峰を殺す伴蔵。

原画

「怪談乳房榎」
十二社の大滝での立ち回り。
正助と三次。

原画

「京鹿子娘道成寺」
こちらは絵本でどうぞ!

収録作品

「東海道四谷怪談」

塩谷家の家臣だった四谷左門の娘・お岩が夫・伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐を果たす物語。

「獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)」

東海道五十三次を舞台に御家騒動と仇討を主軸に描いた鶴屋南北の怪作。
早替わりに宙乗りに本水、ケレンに満ちた大作。

「怪談牡丹燈籠」

愛しい新三郎さんの元へ夜な夜な通う女の正体は幽霊だった!
幽霊に愛されてしまった男と、幽霊に買収された下男夫婦の物語。

「怪談乳房榎」

早替わりや本水を使った演出が見どころの、欲に駆られた人間たちが招く怪異譚。

「京鹿子娘道成寺」

女が大蛇と化して愛する男を焼き殺した道成寺伝説を基にした歌舞伎舞踊の大作。

私のツボ

怪談五選

「どこじゃ?かぶきねこさがし1」の続編として企画された怪談もの。
何を扱うか、は編集担当さん、ライターさんと三人で相談して選びました。
「四谷怪談」「乳房榎」「牡丹燈籠」は外せないよね、と言わずもがなで、残り二本を選ぶのに時間がかかりました。

圓朝ものとして「真景累ヶ淵〜豊志賀の死」、岩藤の骸骨が活躍する「加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)」が候補に上がりました。
まず、どちらも先の三本に比べると知名度が低いこと(=上演頻度が少ない)がネックになり、物語も悲惨過ぎ(豊志賀)、続編なのでややこしい(再岩藤)ということで児童図書には不向きではなかろうかと却下になりました。
特に「豊志賀の死」は恐怖よりも悲しい話で、扱いが難しいです。

オバケの有無だけではなく、人間の業が炙り出されるのが怪談です。
ケレン味が良い緩衝材になっているのだなと思い、歌舞伎が怪談を扱うときは、仕掛けや早替わりや本水などの演出が多用される理由が少し分かったような気がします。
人間の醜さや業を、エンターテイメントとして昇華することの重要性を改めて思い至った次第です。
そのままストレートにぶつけるのも表現手法としては否定しませんが、絵画であれ音楽であれ、個人的にはやはり何かしらのデザインを施した上で公衆の面前に出したいと思っています。
それは伝統芸能でも同じことなのだなーと。

話を戻します。
なかなか決まらないので、怪談=異形のもの=変化もの、と定義を拡げ、狂言だけでなく舞踊も視野に入れました。
前述の怪談三本がどうしても暗い色調になるので、残り二本は明るくしようとなり、歌舞伎といえばの「京鹿子娘道成寺」がまず決まりました。

残り一本をどうするか、できれば舞踊ではなく狂言が良いですねぇと保留になった時に、ライターさんから「獨道中五十三驛」を提案されました。
そうです、「岡崎の猫」です。
猫の絵本である以上、猫ネタは避けて通れなかろうと即決になりました。
猫が、魚油を舐める化け猫に驚くのも不思議ですが、考えてみれば人間だって人間の幽霊だからこそ恐ろしいわけです。
「猫だけにね、マタタビもので」と、ライターさんが締めてくださいました。

サイケデリック怪談

絵本のときは、装丁家さんを交えて対面での打ち合わせをなるべく入れてもらっています。
事前に大枠での路線を決めておけば、装丁家さんもデザインの方向性が決めやすく、私も絵のトーンが決めやすい。
前回とは違う方が担当されるということで、打ち合わせの場を設けてもらいました。

どんな感じにしますかねぇ〜と、緩やかに始まった打ち合わせで、私が「クリムソン・キングの宮殿」の裏ジャケットのような不思議な装丁が良い、と口走ったところ、装丁家さんに「Freeの『Fire and Water』の裏ジャケとか良いですよね」と返されました。
Freeは大好きなバンドなのですが、日常的に出てくる・耳にする単語でもないので、驚いたのと嬉しいのとで興奮してしまい、その後は音楽談義に花が咲いてしまいました。
あのジャケットも良い、あのバンドは音はイマイチだけどジャケットは良いだの、あのジャケットは損をしているだの、完全に趣味の話で盛り上がり、結果、装丁はサイケデリック路線で行くことに決まりました。
ここでいうサイケデリック路線とは、70年代のロック・アルバムの装丁ということです。
ロジャー・ディーン、スタンリー・マウス・ミラー、ピーター・マックス、ハインツ・エーデルマン、ヒプノシス…
怪談はどうしても暗く陰鬱な絵になりがちなので、サイケデリックなデザインならカラフルで明るくて良かろうと。

サイケデリック・ロックのサイケデリックはドラッグによる幻覚が生み出すものが大半ですが、幻覚という意味では怪談も同じことであろう、との結論に至りました。
まさか大好きな音楽と歌舞伎がここで交差するとは!と驚いた瞬間でした。

書誌情報

「怪談 かぶきがわかるさがしもの絵本2」
文:瀧 晴巳 絵:吉田 愛
2019年11月20日発売
講談社の創作絵本シリーズ
ISBN : 978-4-06-516275-0
電子書籍もあります。
探し物ページは絵が細かいので、ピンチアウトができる電子書籍は意外とオススメです。

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