KNPC149 名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)

かぶきねこづくし

描かれている人物

右上:縮屋新助
左下:芸者美代吉
背景:夕立があがった後の永代橋と十五夜の月

絵の解説

美代吉を見つけた新助。殺意に満ちている。

縮屋新助(原画)

贔屓の旗本藤岡の座敷に出ている美代吉。
背景のレモンイエローと水色は、藤岡の座敷の襖の色。

美代吉(原画)

永代橋

永代橋(原画)

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・美代吉(みよきち)
美人で売れっ子の深川芸者。自由奔放で、きっぷが良く、肚になにもないわがままな性格。

・縮屋新助(ちぢみやしんすけ)
越後から江戸に出て行商する縮売(ちぢみうり)。
母一人、子ひとりの真面目な青年。

・三次(さんじ)
船頭。美代吉の情夫。博打好きで、美代吉にしょっちゅう金の無心をしている。

他、およし、魚惚、藤岡慶十郎などがいます。

あらすじ

深川八幡宮の大祭も近い真夏のある日。
深川芸者の美代吉は、旗本藤岡という物分かりの良い贔屓の旦那がいる。
一方、船頭の三次という情夫もいるが、こちらは無類の博打好き。
そのおかげで美代吉は借金だらけになり、深川八幡祭のために新調した衣装の代金も用意できない。

金操りに詰まった美代吉はやけ酒をあおり、三次と喧嘩してふて寝していた。
そこへ美代吉に惚れている新助がやってくる。
新助は、百両の金を持ってきたら一緒に暮らすという美代吉の言葉を信じて金策に飛び出して行く。
入れ違いで藤岡から手切金百両が届く。
美代吉は喧嘩別れした三次と仲直りし、上機嫌で酒を飲む。

故郷の田畑や家蔵を売り払って工面した百両を握りしめて戻ってきた新助。
美代吉と三次の姿を見て愕然とする。
騙したのかと詰め寄るが、二人は取り合わない。
全てを失った新助は悄然として立ち去る。

祭りの日。
新助は発狂し、美代吉を求めて人混みをさまよう。
大勢の見物客のために永代橋が落ち、その大混乱の中で新助は美代吉を殺害する。

私のツボ

げに恐ろしきは

夏の歌舞伎といえば怪談。
この演目は怪談ではありませんが、幽霊の方がまだ救いがあるかもしれないと思うほど、恐ろしい物語です。

発狂した後の新助が本当に恐ろしい。
美代吉の殺しの前に、小判をチャリンと投げ、それを拾う男たちの姿を見て薄ら笑いを浮かべる新助。
すでに発狂しているわけですが、この光景がまず恐ろしいです。
小判を投げ、それを拾う姿をあざ笑う。
そして本水を使っての美代吉殺し。
ザーッと降る夕立の強い雨さながらの、激しく凄惨な立ち回りです。
そして祭の若い衆たちに担ぎ上げられ、宙を仰ぎながら高笑いが止まらず、そのまま花道を下がっていく姿。
前半は真面目な田舎の商人だっただけに痛ましい。

新助を破滅に追いやった美代吉ですが、彼女の悲劇を自業自得という四文字で片付けてしまうこともできません。
彼女もまた、深川芸者としての意地を背負って生きなければならないという現実があります。
金がないから祭の衣装を新調しない・できないと言えない環境に生きていて、母およしは美代吉の金を当てにして遊び暮らしている。
三次との享楽的な関係に溺れてしまうのも、むべなかるらん、と言えましょう。
やけ酒してふて寝してしまう姿は、衣装なんて着古しでも良いのに、と可哀相になってしまいます。
美代吉も、新助も、運が悪かったとしか言いようのない物語です。
あまりにも住む世界が違いすぎて、まさに、出会ってしまったのが運の尽き、です。

三代目中村時蔵さんの芸談の一文、
「(美代吉は)毒婦に見えてはいけません。(中略)苦労をしながら面白おかしくその日その日を送っていくのが身上ですから、根は悪い人ではありません」
に、いたく納得しました。

猪木船や祭、美代吉の家の様子など、深川の風俗描写が非常に美しく風情があるだけに、やりきれない悲劇がより引き立つのでした。

絵になる場面が多い演目ですが、ここは欲張らず、美代吉と新助だけに絞りました。
人の良い新助が発狂した後の姿。
美代吉は藤岡の座敷で仕事中の姿。
八幡祭での手古舞姿も美代吉らしくて良いのですが、新助と対照的にしたかったので、しっとりと美しい芸者姿にしました。

色男の三次、母およし、藤岡、魚惚はまた次の機会に。

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