描かれている人物
上段:(左から)おゆう、お辻
中段左:お長、市川紋吉
中段中央:(左から)お紺、板東栄紫
中段右:文字辰
下段:(左から)お辻、おゆう
絵の解説
「湯島松ケ枝の場」
梅が咲いています。
招き猫は、歌舞伎でお馴染みのキセルの火入。
「湯島松ケ枝の場」
湯呑みで酒を飲む紋吉。
舞台の合間の駆けつけ一杯、月代を隠す手拭いが取れている。
「松ケ枝の座敷の場」
お紺と栄紫、文字辰
紙の都合上、三人並べて描いています。
「湯島天神境内の場」
紅白の梅が咲く、夕方の湯島天神。
晴れ晴れとした顔のお辻、心配顔のおゆう
あらすじ
川口松太郎作
主な登場人物と簡単な説明
・お辻(おつじ)
結城(茨城)の呉服の行商人。後家。倹約家で几帳面。
・おゆう
結城(茨城)の呉服の行商人。後家。鷹揚で大らかな性格。
・坂東栄紫(ばんどうえいし)
美貌の歌舞伎役者。
・お紺(おこん)
文字辰の養女で、栄紫と惚れ合っている。
・文字辰(もじたつ)
常磐津の師匠。養女のお紺の妾話を勝手に進めている。
・お長(おちょう)
松ケ枝の女中。お辻とおゆうに芝居を進める。
・市川紋吉
女形役者。
他、鳶頭、角兵衛獅子の兄弟などがいます。
あらすじ
湯島松ケ枝の場
湯島天神境内の宮地芝居は、美貌の役者坂東栄紫を迎えて好調な入り。
茶屋の松ケ枝でひと休みしていた行商人のおゆうとお辻は、江戸土産にと栄紫の「お染の七役」を見ることにする。
松ケ枝の座敷の場
栄紫にすっかり惚れ込んだお辻。
茶屋の女中に頼み込んで栄紫と会うことに。
すっかり有頂天のお辻。
栄紫と酒を酌み交わして話をしているところへ、お紺が逃げ込んでくる。
後を追って文字辰も踏み込んできて、一緒になりたければ二十両払えと栄紫にすごむ。
それを見たお辻は、二人を夫婦にしてやってくれと財布を投げ出すのだった。
湯島天神境内の場
江戸から国許へ戻るお辻とおゆう。
生まれて初めて男に惚れたのだから金なんて惜しくない、一世一代の心の狂いだからと満足気に自分に言い聞かせるお辻。
そこへ栄紫がやってきて、ひとかたならぬ親切に礼を述べ、長襦袢の片袖を引き裂いてお辻に渡す。
お辻は喜んで受け取り、栄紫の片袖がお辻の江戸みやげとなった。
私のツボ
お茶目なおばちゃんたちのアンサンブル
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな
と、芭蕉の俳句が浮かぶような演目。
テンポも良くて面白く、少し切なくて、大人のほろ苦い恋の物語。
昭和36年初演と比較的新しい作品です。
それぞれの人物設定がよく出来ており、アンサンブルが楽しいです。
締まり屋のお辻、おおらかなおゆう。
どちらも親近感のある”おばちゃん”で、その凸凹コンビが面白いです。
基本的には立役の俳優さんがつとめるので、女性の色気や柔和さより逞しさやパワフルさが前面に出ます。
でも、その奥には可愛らしさがあり、その描き方と演じ方が絶妙なので決して下品になりません。
憎まれ役の文字辰は徹底した悪役で、悲劇のヒロイン・お紺と優男の恋人はじゃらじゃらと熱々ぶりを見せつけます。
舞台を見終わった後、すなわち現実に戻った後、いくら贔屓といえども一年分の稼ぎをポンと差し出すか? と少々突っ込みたくなります。
が、
そんな野暮なことは言いますまい。
様々な人生模様が交錯する演目通り、欲張り構図となりました。
修正箇所とオマケ
紋吉の帯の模様
鳶頭六三郎
入れるスペースを作ることができなかったのでお蔵入り。
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