KNPC86、180 廓文章〜吉田屋(くるわぶんしょう〜よしだや)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC86:伊左衛門、夕霧

KNPC180:伊左衛門、夕霧
赤枠:(左から)
喜左衛門、おきさ、太鼓持ち

絵の解説

KNPC86:
伊左衛門、夕霧

KNPC86原画

KNPC180:
伊左衛門、夕霧

原画(修正前)

喜左衛門
店先で

喜左衛門(原画)

おきさ
手前にあるのは喰積(くいつみ)。
三宝に銀杏を盛り、松を飾った正月飾り。

おきさ(原画)

太鼓持ち

太鼓持ち(原画)

あらすじ

近松門左衛門作

主な登場人物と簡単な説明

・藤屋伊左衛門(ふじやいざえもん)
夕霧の恋人。
大阪きっての豪商の若旦那として羽振りのいい生活をしていたが、放蕩を咎められ親に勘当されてしまい、七百貫目の借金を背負って行方知れずとなった。

・扇屋夕霧(おうぎやゆうぎり)
大坂新町の廓・扇屋の太夫。
伊左衛門とは結婚を約束している間柄だが、伊左衛門が勘当され行方不明になったと聞き病気になってしまう。

・吉田屋喜左衛門(よしだやきざえもん)
新町の揚屋の主だが、勘当された伊左衛門や病気になった夕霧の身を案ずる優しい性格の持ち主。

・おきさ
吉田屋の女将。
夫喜左衛門ともども、伊左衛門や夕霧のことを心配している。

他、番頭、太鼓持ちなどがいます。

あらすじ

新年の準備で忙しい年の暮れ、大阪新町吉田屋の店先。
赤茶けた編笠に紙衣(かみこ)というみずぼらしい身なりの男が現れる。

莫大な借金を背負って落ちぶれた伊左衛門だが、以前と変わらずあたたかく迎える吉田屋の主人・喜左衛門。
夕霧が吉田屋に来ていると知って喜ぶ伊左衛門だが、他の客(阿波大尽・あわのだいじん)の席からなかなか戻らない夕霧に苛々。
やっと逢えた夕霧に嫉妬のあまり当たり散らすが、夕霧の真心がわかり、勘当も解けて身請けの千両箱が運ばれ、めでたしめでたし。

私のツボ

上方の伊達男

初めて観たとき、この伊左衛門という男にどう反応して良いのかわかりませんでした。
えてして近松門左衛門の男性は、平たくいえばダメ男が多く、ダメと分かっていても惚れ合ってしまう男女の悲劇、という構図が多いです。
伊左衛門も、放蕩の末に勘当された若旦那なので、悪人ではないにせよ甲斐性や計画性などを鑑みるとダメ男に分類されるでしょう。
しかも、「吉田屋」は大団円のハッピーエンド。
勘当も許され、身請けの金も用意され、めでたしめでたし。
登場人物も、みな優しい人たちばかりです。
唯一、わがままなのが伊左衛門。
夕霧に悪態をついて困らせる姿は子供のようです。
伊左衛門の色男ぶり、優男ぶりを堪能する傍ら、
正直、なんだこいつ?!と苛立ってしまい、ラストの大団円も半ば白けてしまい、物語に入り込めませんでした。
夕霧の身請けの金も、実家の金だよね?!と無粋なことを考えてしまう始末。
これが、初めて「吉田屋」を観たときの正直な感想です。

「吉田屋」はよく上演されるので、何がどう魅力的なのかをつかみたくて上演されるごとに観に行きました。
もちろん、夕霧の衣装は豪華ですし、美しい。
廓の華やかな正月気分を味わえますし、舞台も小道具も豪華です。

何度か見るうちに、まず、喜左衛門とおきさが良い人なのは、単なる善人なのではなく伊左衛門のお金目当てなのでは?と思うようになりました。
かつての太客で、勘当の身とはいえ豪商の若旦那には変わりなく、実家の藤屋が安泰な限り、冷たくあしらうことはないだろうなと邪推しました。
豪商ですから、財力の他に大坂じゅうに顔がきくでしょうし、敵に回して得なことはありません。
最終的に夕霧の身請け金も手に入り、いちばん美味しい思いをしたのは吉田屋の主夫妻ではなかろうか。
そう思うと、その優しさの裏にしたたかな計算が透けて見えるようで、がぜん面白く感じられました。

さらに、伊左衛門も一文無しで勘当され、どうみてもお先真っ暗なのに、まったく悲壮感がありません。
今、自分が置かれている立場や状況が、清々しいほど分かっていません。
天真爛漫で、なんというか浮世離れしています。
この、浮世離れしたところ、莫大な借金を背負おうと、ビクともしない豪快さ。
凡人なら金策に奔走するか、思い詰めて病気になるか、それ以前にここまで大きな借金を抱えることもなさそうです。
これが伊左衛門のスケールの大きさで、そこが人気の秘密なのかしらと思い至りました。
何があろうと、常に美しく、優雅で、品性を保つこと。

金より大事なもの。
それは色気である。

辛気臭いことが嫌いな上方文化らしい男伊達です。
男伊達の腹の座り方は、江戸と上方とでは違うのだろうと思いました。

そうやって見てみると、ただの御伽噺ではなく、唯一純粋な夕霧を挟んで狐と狸の化かし合いのように見えてきます。
というわけで、私なりの楽しみ方ができたので、改めて描き直しました。
伊左衛門、夕霧のご両人は同じポーズ。
そこに食えない喜左衛門夫婦。
そして箸休め的な存在の太鼓持ちも追加しました。
こうして並べると、もう、やはり化かし合いに見えてしまいます。

あくまで私見ですので、そこはご了承ください。

修正箇所

夕霧の衣装

夕霧の衣装の差し替えパーツ

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