絵の解説
「串打ち三年、割き八年、焼き一生」
土用の丑で、鰻屋は大賑わい。
鰻の焼きに勤しむ師匠を弟子が団扇で仰ぎます。
技は見て盗め。
煙が目にしみてよく見えないのに加え、炎の熱さと暑さでそれどころではありません。
「後でスイカ食べよっと」
夏の果物、ところてん、甘酒売り。
往来に季節の出店が並びます。
「どいた、どいた」
駕籠かきに、蕎麦屋の出前が忙しそうに走り回ります。
「ちょっと!危ないじゃないのさ!気をつけな!」
朝顔市の帰りでしょうか。
道に迷った商人が、おかみさん達に道案内を頼みます。
日差しが眩しい、夏の午後。
真桑瓜または甜瓜
江戸時代、夏に重宝された甘味といえば水菓子。
水菓子は西瓜や瓜のことです。
今と変わらない西瓜が浮世絵などに描かれています。
さて、瓜ですが、一番多かったのは黄色い真桑瓜のようです。
真桑瓜と私の出会いは、高校の古典の授業。
古くは奈良時代の山上臆良の歌、芭蕉や山口誓子などの句にも詠まれています。
最近、でもないですが、山上たつひこ氏の「ゼンマイ仕掛けのまくわうり」もあります。
「時計仕掛けのオレンジ」というタイトルを日本版にしたかのようなのどかな抒情性溢れるタイトルです。
折に触れて登場するまくわうり。
まくわうり、という音の響きがなぜか耳に残り、実物を食べたことはおろか見たこともないので、余計思いが募りました。
両親や祖父母に聞くと、さっぱりした甘さで、昔はよく食べたと。
曰く、手頃な値段でメロンや西瓜が手に入るようになった昨今、あまり出回らなくなったのではないかと。
やがて忘却の彼方に、そして邂逅。
ちょうどこのカードを描く一年前、朝市のようなところでついに出会ったまくわうり。
小降りの楕円形で、レモンイエローが可愛らしい。
勇んで買って、いざ食べてみると、味が全くしません。
歯触りも、もそもそしています。
集中すれば、微かに甘さを感じられます。
甘い果物に慣れた現代人の私の舌には、その淡い甘さを受け止められるだけの繊細さがありませんでした。
奈良時代と令和では、味覚に相当な開きがあるわな、と悠久の時の流れに思いを馳せました。
まくわうりへの片思いは解決したので、カードにしました。
まくわうりだけでは絵になりにくいので、土用の丑に便乗いたしました。
瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ 何處より 来りしものそ 眼交(まなかひ)に もとな懸りて 安眠し寢(な)さぬ
山上憶良
万葉集 巻5-802
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