KNPC34 義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)その7 弥助実は平維盛

かぶきねこづくし

描かれている人物と場面

弥助実は平維盛(やすけ じつは たいらのこれもり)
KNPC34:中段左端(「すし屋」)

絵の解説

お里に亭主の仕草を指導される弥助。

弥助(原画)

あらすじ

「義経千本桜」全五段 竹田出雲・三好松洛・並木千柳(合作)

役の説明

弥助 実は平維盛:(やすけ じつは たいらのこれもり)
釣瓶鮓に雇われて弥助と名乗っているが、実は平重盛の長男維盛。
若葉の内侍という妻がいて、二人の間には六代君という息子がいる。

あらすじ

三段目 「木の実(このみ)・小金吾討死(こきんごうちじに)」
平維盛(これもり)の妻・若葉の内侍(ないし)と一子の六代君(ろくだいぎみ)、家臣の主馬小金吾(しゅめのこきんご)は、維盛が隠れ住むという高野山に向かう途中、吉野の茶屋に立ち寄る。

そこへいがみの権太がやってきて、言いがかりをつけて金をゆすり取る。
騙(かた)りとは分かっていても、平家であることが知れるのを恐れる小金吾たちは、涙を堪えて我慢するしかなかった。

一方、権太は女房の小せんと息子の善太郎と三人、家路につく。

若葉の内侍一行はとうとう捕り手に追いつかれる。
小金吾は内侍と六代君を逃すが、深手を追って絶命。
そこを通りかかった下市村のすし屋の主人弥左衛門は、何かを思いついて小金吾の首を打って持ち去る。

三段目 「すし屋」
下市村の鮓屋「釣瓶鮓(つるべずし)」の看板娘のお里は、店で働く弥助と恋仲で、今宵は祝言と聞かされて浮き足立っている。
弥助は実は平維盛で、維盛の父重盛に恩のある弥左衛門に匿われている。
しかし、それが鎌倉方に露見し、梶原景時から維盛の首を要求されていた。
小金吾の首は身替わりとして鎌倉方へ差し出すつもりで、ひとまず鮓桶に隠す。

おりしも、その晩遅く、若葉の内侍と六代君が一夜の宿を求めて訪ねてくる。
再会を喜ぶ維盛を見て、ことの真相を知ったお里は三人を父親の隠居所へと逃がす。
それを奥の部屋で聞いていた権太は訴人すると鮓桶を抱えて三人の後を追う。

やがて梶原が大勢の家来と共に、鮓屋にきて、弥左衛門に維盛を渡せと迫る。
そこへ権太が、維盛の首と生け捕りにした内侍と六代君を連れてきて梶原に差し出す。
梶原は維盛の首に相違ないと見極め、源頼朝の陣羽織を褒美として権太に与えて立ち去る。

怒りのあまり弥左衛門に腹を刺された権太は真相を語る。
維盛たちは無事で、偽首だけではあやういと考え、自分の妻子に内侍と六代君の衣服を着せ、身替わりとして差し出したという。
権太が合図をすると、本物の維盛一家が無事な姿をあらわした。

維盛が頼朝の陣羽織を恨みを込めて裂こうとすると、中から出てきたのは数珠と袈裟。
かつて、維盛の父重盛に助けられた恩返しに、維盛を出家させて命を助けようという頼朝のはからいだった。

権太は息絶え、維盛は無常を悟って出家、弥左衛門一家は悲しみにくれる。

私のツボ

つむりも青き下男(しもおとこ)

久々に夫と再会した維盛の妻・若葉の内侍が、弥助の姿に驚いて発した言葉。
なうなつかしや、と涙の再会をするものの、袖のないお羽織は、そのおつむりは何事ぞ、となじられます。

平家が全盛であった平安時代後期であれば、直衣や狩衣を着て、烏帽子を被るのが本来の装束です。
それが、ちょんまげに袖のない羽織を着て、平家の貴公子たるもの嘆かわしや、と。
何気ない会話ですが、このやりとりが面白いので好きです。

平家の貴公子が、鮨屋の下男になり、日本髪に黄八丈の田舎娘に迫られる。
平安時代と江戸時代がクロスオーバーするこのセンス、時代考証を一切無視したこの自由さは歌舞伎の魅力の一つです。

というわけで、亭主の所作の指導を受ける平家の貴公子を描きました。

親子水いらず
「かぶきがわかるねこづくし絵本 義経千本桜」(講談社刊)より原画部分

弥助、六代君、若葉の内侍(原画 部分)

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