お蔵入り「熊谷陣屋」

お蔵入り

絵の解説

原画

お蔵入りの理由

監修より、札の文言を全文見えるように描いてほしいとの指摘をいただいたため。


此花江南所無也
一枝於折盗之輩
任天永紅葉之例
伐一枝可剪一指

寿永三年如月
武蔵坊弁慶
承之

と、書いてあります。
最後の「承之」は弁慶が之を承った、の意です。

絵を描くとき、全体の空気は観劇時の印象をベースにしていますが、細部は舞台写真で確認して描いています。
この制札の見得も複数の舞台写真を参考に描きました。
撮影の角度にもよりますが、制札が全て見えているものもあれば、一部頭で隠れているものもあります。
制札の文章が全文見えるのもやや不自然に感じられ、少し頭の影に据えました。

結果、全文見えるようにとの修正指示が入ります。
そこで知ったのは、歌舞伎の美はリアリズムでは無く、独自の”歌舞伎の美”があるのだと言うこと。
リアルに見えて、リアルではない。
リアルに見えるように細かく計算されています。
衣装を描く時に一番気をつけているのが襟元です。
舞台芸術ですから、多少の着衣の乱れが生じて当然ですが、そのリアリティは歌舞伎には不要なのだと今は理解しています。

そこが歌舞伎の魅力の真髄では無いかと思っています。
美しくなければ意味がない。
制札の文章が単に全文読めるかどうかよりも、制札が曲がらず、熊谷と共にまっすぐに立っているその様子が美しいかどうかが重要なのだと思います。

歌舞伎の小道具は細かなものまで本当に美しいのですが、それは細かいところまで気を抜かない美意識の高さを表しているのだろうと思います。

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