描かれている人物
KNPC87:(左から)辰五郎倅又八、辰五郎女房お仲、め組浜松町辰五郎
KNPC88:(左から)辰五郎倅又八、め組浜松町辰五郎
絵の解説
喧嘩に出向こうとしない辰五郎を挑発するお仲。
手にしているのは又八の玩具・ミニ纏。
又八の玩具はミニ火消しセットで、カラフルな千代紙が貼られた箱の上に乗っているのはミニ梯子です。
火事場装束の刺子半纏に着替え、決死の喧嘩へ向かう辰五郎に、自分も連れて行ってくれと駄々をこねる又八。
「嫌だ嫌だ、ちゃんと一緒がいい」
やがて相撲の打ち出しの太鼓の音がして、辰五郎は駆け出していく。
太鼓の音が効果的で、緊張感がある場面。
あらすじ
「神明恵和合取組~め組の喧嘩(かみのめぐみわごうのとりくみ~めぐみのけんか)」四幕八場
主な登場人物と簡単な説明
・辰五郎(たつごろう)
町火消「め組」の頭(かしら)。持ち場は浜松町。
・お仲(おなか)
辰五郎の女房。男勝りの勝ち気な性格。
・又八(またはち)
辰五郎とお仲の息子。
他、三河町藤松、九竜山浪右衛門、四ッ車大八、焚出し喜三郎などがいます。
あらすじ
序幕
<品川島崎楼>
品川の島崎楼。
宴会を開いていた四ツ車の弟子の取的が隣座敷の障子を踏み破ったことから、その座敷にいた辰五郎の子分・藤松と力士が喧嘩になる。
め組の仲間たちもやってきて騒ぎが大きくなるが、辰五郎がその場を収める。
四ツ車を抱える侍に相撲取は士分だから鳶などとは身分が違うと言われ、怒りを覚える。
<高輪八つ山下>
その帰路、面子を汚された辰五郎は四ツ車を襲うが果たせず、莨入(たばこいれ)を落として立ち去る。
莨入(たばこいれ)は辰五郎の兄貴分・喜三郎が拾う。
二幕目
「神明芝居木戸前」
芝神明社内の芝居小屋で、め組の若い者らと四ツ車らが再び揉み合いになるが、芝居の座元が止めに入る
三幕目
「焚出し喜三郎内」
相撲取と命をかけて喧嘩する決意をした辰五郎は兄貴分の喜三郎に暇乞いをする。
「濱松町辰五郎内」
辰五郎が酔った様子で帰ってくる。
喧嘩に出向こうとしない辰五郎を、お仲や子分らが責め立てる。
辰五郎は相撲場所がはねるのを待ち、仕返しをすると打ち明ける。
酔い覚ましの水を呑むふりをして女房子供に別れを告げ、辰五郎は駆け出していく。
ーー四幕目の大詰へ続くーー
KNPC89をご覧ください。
私のツボ
「やっちまいな」
「火事と喧嘩は江戸の華」を具現化したような作品で登場人物も描きどころも多いのですが、ここは欲張らず主人公である辰五郎と、その家族にしぼりました。
意気と意地に生きる鉄火な江戸っ子夫妻と可愛い息子。
<辰五郎内>での家族の様子。
お仲が辰五郎をなじる場面、三人とも視線が絡みません。
それぞれが違う方向を見ており、これが面白くてこの場面を選びました。
この絵の中心はお仲です。彼女だけ動きがあります。
両親が遊んでいると勘違いしているかのような又八の表情が微笑ましいです。
そして、別れの水盃を交わし、いざ喧嘩へ。
この後が、辰五郎と又八の別れです。
「極付幡随長兵衛」でも、同様の場面があります。
子供は”いつもと違う”を敏感に察知するのでしょう。
長兵衛も辰五郎も、”男の中の男”であろうと男の意地を貫いて自ら死地へ赴きます。
ここでの辰五郎の表情と、醸し出す空気が良くて、ここを描きました。
俺はめ組の頭だ、若い衆を率いるリーダーだ、との辰五郎の思いを象徴して、左上に”め”を配置しました。
「やっちまいな」とは、芝居小屋前で若い衆をけしかける辰五郎の言葉で、この言い回しがサラリと軽くてよろしいのです。
肚が据わっていなければ、なかなか醸し出せないこの軽さ。
サラッとこの「やっちまいな」が言える人間になりたいものです。
絵を描く時によく繰り広げられる、私の脳内での会話。
「この構図で描きたいけれど、細くなるから大きいサイズでないと描きづらいな、大きいと水張りが大変だし、他の作業も大変だしな…どうしようか」
「やっちまいな」
「やっちまうか」
「やっちまいなよ」
*水張り
絵具の水分で紙がたわまないように、事前に紙を水で濡らしてパネルに張り込む作業。
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