KNPC72 「一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)」

かぶきねこづくし

描かれている人物

お蔦、駒形茂兵衛

絵の解説

取手宿の街道筋。我孫子屋の二階から茂兵衛と話すお蔦。
我孫子屋の一階、玄関先に菊が咲いています。

茂兵衛、お蔦(原画)

あらすじ

「一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)」 長谷川伸 作

主な登場人物と簡単な説明

・駒形茂兵衛(こまがたもへえ)
取的(とりてき)だが、巡業先で親方に見限られる。
亡き母の墓前で土俵入の姿を見せるのが夢。

・お蔦(おつた)
旅籠茶屋・我孫子屋の酌婦。
船印彫(だしぼり)師の辰三郎との間にもうけた娘が一人いる。

他、辰五郎、波一里儀十、堀下げの根吉などがいます。

あらすじ

序幕
巡業先で親方から見限られた駒形茂兵衛は、一文無しで空腹のまま江戸に戻ろうとしている。
取手の街道筋で会話を交わしたお蔦に財布と櫛かんざしを恵まれ励まされる。

大詰
十年後、お蔦は娘と二人、飴売りをして暮らしていた。
そこへ上方へ行っていた夫の辰三郎が戻る。
しかも、土地の親分・波一里儀十の賭場でイカサマをしたため追われている。
追い詰められた親子三人の前に、博徒となった茂兵衛が現れお蔦に昔の礼を言う。
儀十らを叩きのめす茂兵衛を見て、お蔦はようやく十年前のことを思い出す。
茂兵衛は親子三人を逃し、桜の下で名台詞「…しがねえ姿の土俵入りでござんす」、幕。

私のツボ

前半と後半で大きく雰囲気が異なる演目です。
登場人物の状況はもちろんですが、舞台美術も対照的です。
前半は昼間の往来、菊が咲き誇る晩秋。
後半は夜桜が美しい春。後半冒頭の布施の川べりの様子もほのぼのとしています。

前半、我孫子屋の玄関先に並べられた菊の植木鉢が美しく咲いています。
お蔦が二階から茂兵衛と言葉を交わすこの場面は有名ですし、私も大好きです。
酒に酔ってやさぐれたお蔦が茂兵衛の人柄に胸を打たれる場面。
これがきっかけで、お蔦の、十年後のささやかながらも母娘の平和な生活に繋がるのだろうと思います。

舞台でも、ここでのお蔦の心理描写は細やかで、胸に迫るものがあります。
茂兵衛との出会いで、お蔦の心に何かが喚起された。
それは母の愛情、親を思う気持ち、娘への愛情、つまりは愛だと思います。
そのお蔦の心の変化を表したくて、咲き誇る美しい大輪の菊を配置した構図にしました。

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