KNPC49 寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)

かぶきねこづくし

描かれている人物

(左から)
鬼王新左衛門、化粧坂少将、喜瀬川亀鶴、小林舞鶴、曽我五郎時致、曽我十郎祐成、大磯の虎、八幡三郎行氏、梶原平次景高、工藤左衛門祐経、梶原平三景時、近江小藤太成家

絵の解説

絵面の見得。
右端、高座に立って左手に友切丸、右手に扇子を持って鶴の見得。扇子を鶴の嘴に見立てています。
中央の五郎、十郎、舞鶴(朝比奈)の三人が一緒で富士山の形。
左端、平伏する鬼王が亀の見立て。

上方は、襖が開いて富士山が見える演出です。
絵に描いたのは江戸型。

舞台装置は、舞台装置は、高足(たかあし)の二重屋体に、紺と白の市松の揚障子(あげしょうじ)、梅の釣枝。
揚障子を上げると工藤祐経の紋所である庵木瓜(いおりもっこう)の模様を散らした襖(ふすま)。

喜瀬川亀鶴はレギュラーではありませんが、華やかなので追加バージョンにしました。
小林朝比奈・舞鶴の兄妹は、基本的には兄の朝比奈が出ます。
配役の都合によるようです。
小林朝比奈もインパクト大の化粧と衣装で存在感たっぷりですが、どちらかというと舞鶴の方が珍しく、衣装も可愛らしいので舞鶴にしました。

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・鬼王新左衛門(おにおうしんざえもん)
曽我家の家来

・化粧坂少将(けわいざかのしょうしょう):
大磯の廓の遊女。実は五郎と恋仲

・喜瀬川亀鶴(きせがわかめつる)
大磯の廓の遊女。
*いない時もあります。華やかになるので追加しました。

・小林舞鶴(こばやしまいづる)
小林朝比奈の妹
*小林朝比奈の場合が多い

・曽我五郎時致(そがごろうときむね)
曽我兄弟の弟。血気盛んな若者で、典型的な ”荒事(あらごと)” の役。

・曽我十郎祐成(そがのじゅうろうすけなり)
曽我兄弟の兄。物腰柔らかく落ち着いた ” 和事(わごと)” の役柄。

・大磯の虎(おおいそのとら)
大磯の廓の遊女。十郎の恋人。

・八幡三郎行氏(やわたのさぶろうゆきうじ)
工藤の側近、忠実な家来

・梶原平次景高(かじわらへいじかげたか)
平三景時の次男

・工藤左衛門祐経(くどうさえもんすけつね)
将軍源頼朝の信頼厚い大名で、大名の筆頭である一臈職(いちろうしょく)を賜り、富士山の裾野で行われる大規模な巻狩(まきがり)の総奉行も引き受ける。
十八年前、伊東祐親(いとうすけちか)との領地争いが原因で曽我兄弟の実父である河津三郎祐泰(かわづのさぶろうすけやす)を討った。

・梶原平三景時(かじわらへいぞうかげとき)
源頼朝の信頼厚い大名の一人

・近江小藤太成家(おうみのことうたなりいえ)
工藤の側近ではあるが、お家の乗っ取りを密かに企んでいる

あらすじ

工藤祐経の館では、重職に就いた祝いの宴が開かれている。
諸大名らが挨拶に訪れ、大磯の廓から呼ばれた遊女らが花を添える。
そこへ舞鶴(朝比奈)の取りなしで五郎十郎の曽我兄弟が工藤に面会に来る。
工藤は二人に盃をやるが、血気にはやる五郎は父の敵と名乗れと工藤に詰め寄る。
源氏の重宝・友切丸が見つかるまで仇討ちはできないと工藤は申し渡す。

そこへ曽我の忠臣・鬼王が友切丸が手に入ったと持参する。
工藤は勇む兄弟に「時節を待て」と言い、巻狩の狩場の通行切手を与えて、再会を約束する。

私のツボ

舞台から放たれる圧

内容的には、曽我兄弟が十八年の時を経て、初めて仇に対面する瞬間です。
工藤も兄弟の顔を知らず、二人の顔に河津三郎の面影を見出します。

仇同士が初めて対面する緊迫した瞬間ですが、様式化された動きや台詞と派手な舞台が楽しく、ドラマという意味での緊迫感より、歌舞伎独特の緊張感があって心地良いです。
歌舞伎独特の緊張感というのは、それぞれの俳優さんの押し出しというか、存在感というか、それらのせめぎ合いです。
舞台から放たれる、その圧を描きたくて、全体を入れる構図にしました。

それぞれ衣装も化粧も豪華なので個別に大きく描きたいところですが、この贅沢な舞台の密度こそが「対面」の魅力だと思います。

なげえものには巻かれろだわ

工藤はスッキリした立役のあつらえで、一見すると敵に見えません。
立場的には敵ですが、曽我兄弟を逃し、暗に討たれる意を示しています。

一方、後ろに座る大名たちの方は、梶原親子を筆頭に憎々しげな佇まいです。
曽我兄弟に渡りセリフで悪態をつきますが、中でも「なげえものには巻かれろだわ」というのが面白く、これぞ処世の心得なのかもしれません。

見るだけでも十分楽しめる演目ですが、セリフがわかるとさらに面白いです。

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