描かれている人物
左端上の仁木弾正から時計回りで
荒獅子男之助、怪しいネズミ(仁木弾正)、仁木弾正、渡辺外記左衛門、細川勝元
絵の解説
前半とは一転、男のドラマ〜何をしているところか?
仁木弾正:煙とともにドロドロとスッポンから現れる。
印を結んでいる最中なので半眼です。
幕外で印を解くと同時に眼を見開く。
五代目幸四郎の当たり役で、個人の特徴である眉の横の黒子や四つ花菱の家紋までもがその役に投影されて、「高麗屋型」として現在にまで継承されています。
鼠色の着付に長袴という衣装も、五代目幸四郎によります。
荒獅子男之助:鉄扇でネズミを打ち据える。出は短いが、荒事の味わい。
問注所での仁木弾正:鷺の見得。外記左衛門に足をたたかれたので片足で立っている。
紫の襷をかけるのと、刀の下げ緒を使うのと二種類あります。
これは刀の下げ緒。
渡辺外記左衛門:弾正と対決する外記左衛門。
背景の波は、衝立の図柄。
細川勝元:弾正を追い込む勝元。背景の紗綾形紋は問注所の襖の紋様。
弾正がモノトーンなので、カラフルな色で周りを固めました。
男之助の緑とオレンジ、勝元の青、外記左衛門の黄色。
主要な色が一通り揃い、歌舞伎の色彩センスはすごいなと感心しました。
あらすじ
「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」後半「床下」「対決」「刃傷」
主な登場人物と簡単な説明
・仁木弾正(にっきだんじょう)
足利家の転覆、横領を企んでいる。ネズミの妖術を使う。
・荒獅子男之助(あらじしおのすけ)
足利家の忠臣。
謀反を企てる一味の讒言によって主君鶴千代への目通りを遠ざけられ、寝所の床下に宿直(とのい)をしている。
・細川勝元(ほそかわかつもと)
颯爽とした捌き役。
問注所を束ね、裁判官の役割を果たす管領(かんれい)の一人。
・渡辺外記左衛門(わたなべげきざえもん)
鶴千代君の忠臣。
仁木弾正と刃傷のすえ、家督継目の墨付を得て喜びのうちに息たえる。
あらすじ
三幕目 床下
御殿の床下で見張りをしている荒獅子男之助は、大鼠を踏みつけ鉄扇で打つが取り逃してしまう。
やがて現れたのは眉間に疵を負った仁木弾正。
大ネズミの正体は、妖術で姿を変えた仁木弾正であった。
くやしがる男之助に手裏剣を投げつけ、せせら笑いながら悠然と空中へ消えていく。
四幕目 問註所対決の場
鶴千代の忠臣・山中外記左衛門と足利家のお家乗っ取りを企む仁木弾正らが問註所で対決。
裁くのは弾正一味の山名宗全。
外記左衛門が持っている弾正謀反の証拠「半分にちぎれた鶴千代呪詛の密書」
そこへ細川勝元がやって来て、弾正の罪を弾劾。外記左衛門らは勝利する。
大詰 問註所刃傷の場
追い詰められた弾正は外記左衛門に斬りつけるが、外記左衛門の息子らに討たれる。
勝元は、重傷を負った外記左衛門に薬湯を与え、ひとさし舞うように言う。
外記左衛門は最後の力の振り絞って舞い、勝元は外記左衛門の忠臣ぶりを褒め称えるのだった。
*前半の「竹の間」「御殿」はKNPC99、KNPC189をご覧ください。
私のツボ
後半の主人公は誰?
「先代萩」はいろいろな役が出てきて、歌舞伎の要素が満載です。
「床下」は本来なら「御殿」とセットで上演され、通しの場合でもこの後に幕間が入ります。
女たちの世界、男たちの世界と分けたかったことと、メインの人物を明確にしたかったので「床下」は「対決」の方に組み入れました。
前半、女たちの世界では政岡が主人公、引き立て役として八汐。
前半はとても明確です。
後半、仁木弾正が主役なのは「床下」までで、「対決」からは細川勝元が主人公、弾正は引き立て役ではないかと思っています。
あくまで私見です。
弾正がのらりくらりと問答をかわすうちに「おそれいったか」と勝元にやり込められてしまい、退室。
再び登場して立ち回りをするも、結局討たれてしまいます。
どうにも弾正の尻すぼみ感が拭えません。
得意の妖術を使えばと思いますが、それは悪手と判断したのでしょう、きっと。
捌き役の本領を発揮した勝元は、重傷を負った外記左衛門に薬湯を与え、歩けないだろうと立派な籠まで用意します。
それなのに、外記左衛門に舞をひとさし所望し、重傷をおして踊る外記左衛門。
結果、外記左衛門は死んでしまいますが、勝元が踊らせなければ・応急処置していれば助かったのでは?とモヤッとします。
納得がいかなかったので、調べた結果、武士として名誉ある最期をとげさせた勝元の優しさだろうと解釈しました。
問注所という公的な場で、自分の息子や家臣もいます。
”自分の命をも顧みない忠臣がいる足利家は安泰である”ということを内外にアピールする機会を設けてあげたのかなと思います。
家督が無事に鶴千代に引き継がれたとはいえ、まだ幼いですから、隙を見せたらまた乗っ取られかねません。弾正以外にもお家乗っ取りを企む者が近くに潜んでいるかもしれません。
当の本人は重傷なので、そこまで気が回らないでしょう。
武士は大変です。
古典は現代の感覚だとついていけない点が多いですが、その”理解できない溝”をいろいろ調べて埋めていくのもまた楽しいです。
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