KNPC75、76 積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC75:
(左から)傾城墨染実は小町桜の精、関守関兵衛実は大伴黒主

KNPC76:
(左から)小野小町姫、関守関兵衛実は大伴黒主、良峯少将宗貞

絵の解説

大伴黒主の見あらわし。

原画

三人の総踊り

原画

小野小町は赤姫の扮装。
関兵衛は草色に源氏香の綿入。頭には柿茶の関兵衛頭巾。
宗貞の衣装は紫の地に流水扇模様ですが、地が浅葱色の場合もあり、俳優さんによって異なります。

あらすじ

通称「関の扉(せきのと)」

主な登場人物と簡単な説明

・関守関兵衛 実は 大伴黒主(せきもりせきべえ じつは おおとものくろぬし)
逢坂山(おうさかやま)の関を守る関守。実は天下を狙う大悪人・大伴黒主。

・良峯少将宗貞(よしみねしょうしょうむねさだ)
先帝の忠臣。御陵のある逢坂の関で、その菩提を弔っている。
のちの僧正遍照。

・小野小町姫(おののこまちひめ)
三井寺参詣のために通りかかった逢坂の関で、相思相愛の仲だった宗貞と再会する。

・傾城墨染 実は 小町桜の精(けいせいすみぞめ じつは こまちざくらのせい)
逢坂山の関にある、樹齢三百年を超える桜木の精。
人間の姿になって都へ下り、宗貞の弟安貞と恋仲になった。

あらすじ

前半
雪の逢坂山の関。
関のほとりには先帝仁明天皇の御陵があり、そこに先帝遺愛の桜を移し、忠臣の宗貞が菩提を弔っている。
雪の中、咲き誇るこの桜は、先帝崩御を悲しむ余り薄墨色の花をつけたので墨染桜と呼ばれていた。
小野小町の歌のおかげで桜に色がつき、今では小町桜と呼ばれている。

その小町が三井寺参詣のため関を通り、偶然、宗貞と再会する。

そこへ関守の関兵衛がやってきて、二人の馴れ初めを聞く。
三人がそれぞれの思いを胸に踊り始める。

ふとしたはずみで関兵衛が勘合の印と割符を落とす。
どちらも宮中で紛失したものだった。

怪しむ小町と宗貞。
宗貞の弟・安貞が自らの死を兄に知らせるために飛ばした使いの鷹が片袖を咥えて飛来する。
関兵衛が大伴黒主ではないかと疑う宗貞は、小町を密かに都の小野篁(おののたかむら)のもとへ知らせに行かせる。

後半
夜もふけ、酒に酔った関兵衛が盃に移った夜空の星で星操り(星占い)をすると、今宵桜を伐って護摩木にすれば大願成就との吉相が出る。
関兵衛が桜を伐ろうとしますが気を失う。

墨染と名乗る美しい傾城が、桜の木の中から現れ、関兵衛に言い寄る。
実はこの傾城は小町桜の精で、黒主ら謀反人のために殺された夫・安貞の仇を討とうとして関兵衛に近づいたのだった。

詰め寄る墨染に、関兵衛も本性を表し、二人は激しく争う。

私のツボ

効果的な赤

大好きな演目。
まず、夜の雪山に満開の桜という妖しい光景。
夜の雪山を赤姫姿の小町が一人歩いていたり、怪しい関守がほろ酔いで(盃は鳴神上人サイズ)星占いをしたり、桜の精が出てきたり、ファンタジー色が強いです。
桜の精が天女姿などではなく、伏見橦木町の傾城と具体的かつ世俗的なのも面白いです。

そして何より、全体の色使い、衣装と舞台美術のバランスが素晴らしいです。
木樵の関兵衛の、茶・緑・黒(歌舞伎座の定式幕の配色ですね)にチラッと覗く赤と水色。
小野小町の赤、宗貞の紫。
舞台美術がモノトーンに抑えられているので、三者の衣装の色が美しく映えます。

後半の墨染と大伴黒主との絡みは、一層色が抑えられます。
ここでも赤が効果的で、黒主の赤い舌、袖から覗く裏地の赤、大きな鉞(まさかり)の炎の文様。
歌舞伎には珍しく赤の占める比率が少ないので、かえって赤が鮮やかに目立ちます。

おおらかで、夢幻的な内容の舞踊とは対照的に、締まった配色の舞台です。

雲気(うんき)

雲がスルスルと下がってきて、「はてあやしやなァ」と関兵衛は気を失い、桜の木の精がぼーっと浮かびます。
この雲気は怪奇現象の前触れで、「三社祭」でも出てきます。

この雲、スルスルと降りてくる様が可愛らしくて大好きです。

雲気(原画)

コメント