描かれている人物と場面
早見藤太(はやみのとうた)
KNPC34
上段中央:鳥居前
絵の解説
<鳥居前>
義経一行を追いかけてきた敵方の軍勢の大将、我らが藤太。
言うまでもなく半道敵です。
モットー:
強い相手なら逃げる、弱い相手なら引っ捕える。
それより何より、まずは飯。
腹が減っては動かれぬ。
厚綿入りの筒袖の着付、裁着袴に陣羽織。
あらすじ
「義経千本桜」全五段 竹田出雲・三好松洛・並木千柳(合作)
役の説明
早見藤太(はやみのとうた):
義経一行を追う鎌倉方の武将。
名前が笹目忠太(ささめのちゅうた)となる場合もある。
あらすじ
初段
<序幕>
義経は後白河法皇より初音の鼓を賜ります。
左大臣・藤原朝方は鼓に事寄せて頼朝を討てと義経に命じます。
<北嵯峨庵室>
庵室に匿われていた平維盛の御台・若葉内侍(わかばのないし)と嫡子・六代君(ろくだいのきみ)は主馬小金吾(しゅめのこきんご)とともに維盛がいるという高野山を目指して旅立ちます。
<川越上使>
頼朝の使いとして川越太郎が義経が住む堀川御所に来ます。
謀反の嫌疑をかけられた義経を救うため、義経の正妻・卿の君は自害します。
<堀川御所>
塀外で、弁慶が鎌倉方の軍勢を討ち果たしてしまいます。
義経は都を捨て、頼朝への恭順を示そうとします。
*ほぼ上演されません。
二段目
<鳥居前>
伏見稲荷の鳥居前、落人となった義経一行を静御前が追って来ます。
義経は静御前に初音の鼓を形見として授け、梅の木に縛り付けて追ってこないようにします。
そこへ鎌倉方の軍勢が来、静御前を捕まえようとしますが、義経の家臣・佐藤忠信がこれを助けます。
義経は忠信に静御前を都へ連れ戻すよう命じ、別れを告げるのでした。
<渡海屋>
九州を目指す義経一行は、摂津の船問屋に逗留中。
船問屋の家主・銀平は、実は平知盛、妻のお柳は典侍の局、娘のお安は安徳帝でした。
<大物浦>
義経を討たんとする平知盛の策略を見破っていた義経は、大物浦で知盛を追い詰めます。
義経は安徳帝の保護を約束すると、典侍の局は自害。
それを見た知盛は、碇もろとも海へと身を投げるのでした。
三段目
<椎の木・小金吾討死>
平維盛の妻・若葉の内侍、嫡子の六代君、主馬小金吾が吉野の茶屋で休憩しています。
通りかかったいがみの権太が言いがかりをつけ金をたかろうとしますが、小金吾は黙ってやり過ごします。
その後、敵方の捕手に囲まれ、若葉内侍と六代君を逃すも小金吾は討死してしまいます。
<鮨屋>
吉野の里の鮨屋の弥左衛門は平維盛をかくまっていますが、敵方の知るところとなり、梶原景時から首を要求されています。
奇しくもその晩、若葉内侍と六代君が鮨屋を訪れ、維盛親子は再会を果たします。
権太の機転で難を逃れた維盛親子でしたが、勘違いから弥左衛門は権太を刀で刺してしまいます。
瀕死の権太の告白により真実を知った弥左衛門たちは悲嘆にくれながら権太を看取るのでした。
四段目
<道行初音旅>
義経が吉野へ落ち延びたと伝え聞いた静御前は、忠信を御供に連れて吉野へと急ぎます。
<川連法眼館>
吉野山の川連法眼館に、二人の忠信が現れ、源九郎狐の正体が露見します。
聞けば、初音の鼓の皮となった狐の子で、親狐を慕い、鼓に付き従ってきたとのこと。
義経は、狐の孝心とこれまでの働きを讃え、初音の鼓を与えます。
狐は、夜討ちを企む吉野山の悪僧たちを蹴散らし、鼓を抱いて古巣に帰っていくのでした。
*ここまでで終わる場合が多い
<奥庭>
義経を狙う僧・横川覚範(よかわのかくはん)を追い詰める本物の佐藤忠信。
実は覚範は平氏の猛将・能登守教経(のとのかみのりつね)でした。
義経の計らいで安徳帝は母の建礼門院のもとへ行き出家することになります。
義経は教経との勝負を決する再会を約束し大団円。
絵面の見得で幕。
*五段目は歌舞伎では上演されません。
私のツボ
早見藤太(はやみのとうた)と笹目忠太(ささめのちゅうた)
藤太が出てくるのは、「鳥居前」と「道行初音旅」です。
「道行初音旅」が早見藤太ですが、「鳥居前」では笹目忠太(ささめのちゅうた)として登場することが多いです。
原作である浄瑠璃では早見藤太は「鳥居前」で忠信に踏み殺されてしまいます。
登場はそこで終わり。
「道行初音旅」は静と忠信のみで、捕手は出てきませんし、立ち回りもありません。
「道行初音旅」の藤太は歌舞伎の入れ事です。
ただ、藤太は「鳥居前」で死んだはずなので、そうなると辻褄が合わなくなります。
そこで、「鳥居前」は笹目忠太(ささめのちゅうた)、「道行初音旅」は早見藤太(はやみのとうた)と二人の半道敵が誕生します。
役柄は同じですが、髪型や隈が微妙に違っており、衣装も異なります。
よく似ているが別人=そっくりさんということだと思います。
そっくりさんで代用する、この歌舞伎のフレキシブルさが大好きですし、それだけ藤太キャラが愛されており、重要な役なのだろうと思うと嬉しいです。
監修は早見藤太で出しているので、藤太のままにします。
「どこじゃ?かぶきねこさがし1」より「鳥居前」早見藤太、佐藤忠信、静御前
捕まえようと失敗して、道行で追いかけてきて邪魔をするのは「忠臣蔵」の鷺坂伴内と同じです。
なので、藤太はてっきり踏みつけられて気絶しただけかと思っていました。
ファンタジーなので藤太のドッペルゲンガーなのかもしれません。
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