KNPC118、KNPC194 三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC118:
赤枠左から:お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉三
下:(左から)お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉三

KNPC194:
上:(左から)お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉三
下:(左から)お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉三

絵の解説

KNPC118
<大川端庚申塚の場>
斬り合いになったお嬢吉三とお坊吉三の間に割って入る和尚吉三。

お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉三(原画)

「三人吉三」といえばこの場面。
三人吉三のトライアングル。
お坊は”吉の字菱”の紋が入った着付(黒、焦茶、薄紫の着付、柄物の場合もあり俳優さんによる)。
丸の内に封じ文の紋がついています。
お嬢は槍梅(やりうめ)模様の黒の振袖。
和尚は薄鼠の地に、屋号があしらわれた柄が多い。

お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉(原画)

月と空(原画)

朧月に、梅の花、大川の水面が美しい場面です。

KNPC194
上:<大川端庚申塚の場>

大川端庚申塚の場(原画)

下:<本郷火の見櫓の場>

本郷火の見櫓の場 (原画)

雪が舞う中での大立ち廻り。
物語の発端と、その結末。
梅薫る節分の朧月夜に出会い、雪が舞うなか命を落とす三人。

あらすじ

「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」または「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」通称 三人吉三 河竹黙阿弥 作

主な登場人物と簡単な説明

・和尚吉三(おしょうきちさ)
土左衛門伝吉(どざえもんでんきち)の子で、おとせの兄。三人吉三の兄貴分。

・お坊吉三(おぼうきちさ)
安森源次兵衛の息子。
将軍から預かっていた名刀「庚申丸」を盗まれ父は切腹、お家滅亡の悲運から盗賊になる。
家柄から”お坊(お坊ちゃんの意)”と呼ばれる。

・お嬢吉三(おじょうきちさ)
八百屋久兵衛の子で、五歳の時に誘拐され旅役者の一座に売られ、女形として成長。
女装姿の盗賊となる。

他、土左衛門伝吉、夜鷹おとせ、十三郎、八百屋久兵衛などがいます。

あらすじ

大川端庚申塚の場
大川端。節分の夜。
夜鷹のおとせが、昨晩の若い客が落としていった百両を持ち主に返そうと探し歩いています。
振袖姿の若い娘がやって来て、おとせが百両を持っていると知ると、財布を奪い川へ突き落とし、通りすがりの男から刀を奪います。
その百両を巡ってお坊吉三とお嬢吉三が争いになるところへ和尚吉三が仲裁に入りました。
三人の吉三は互いの血を飲んで義兄弟の契りを結びます。
百両は和尚吉三が預かります。

割下水伝吉内の場
和尚吉三の父・土左衛門伝吉は売春宿を営んでいます。
娘のおとせが探している百両の持ち主・十三郎は店の金を紛失したため身投げしようとしたのを伝吉に助けられ、伝吉の家にいました。
そこへ、川へ落ちたおとせを助けた八百屋久兵衛が、おとせを伴ってやって来ました。
十三郎は八百屋久兵衛の養子で、それぞれが無事を喜ぶのでした。

久兵衛の身の上話から、伝吉は、十三郎が昔捨てた、おとせの双子の兄だと気づきます。

久兵衛が帰った後、和尚吉三が百両の金を無沙汰の詫びにと持ってきます。
汚れた金だろうと伝吉は受け取るのを拒み、門口に投げつけます。
それを釜屋武兵衛が拾って逃げるのでした。

お竹蔵の場
武兵衛の行く手に現れたお坊吉三が金を奪いますが、追ってきた伝吉を和尚吉三の父と知らずに殺してしまいます。

巣鴨吉祥院の場
和尚吉三の住む吉祥院に、おとせと十三郎、お嬢とお坊がやって来ます。

お嬢は大川端で和尚の妹から百両を奪ったのが全ての発端と知り、お坊は殺した伝吉が和尚の父と知って、和尚に義理を立てた二人は死のうとします。
そこへ和尚がおとせと十三郎の首を抱えて飛び込んで来て、二人を止めます。

聞けば、おとせと十三郎は実の兄と妹。知らぬとはいえ畜生道に落ちてしまった。
その忌まわしい事実を知らない間に、親の仇を討つためと死なせてやる方が良かったこと。
さらに、お坊が殺した伝吉こそがお坊の親の仇。
また、おとせを助けた十三郎の養父・八百屋久兵衛はお嬢の実の親であること。

おとせと十三郎の首を役人に身替わりとして差し出す間に、逃げられるだけ逃げろと和尚は二人に頼むのでした。

本郷火の見櫓の場
和尚吉三は既に捕まり、木戸は残りの二人が捕まるまで固く閉められています。
お嬢は櫓に登って太鼓を叩くと、木戸が開き、和尚は捕手から逃げます。
そこへ八百屋久兵衛が現れ、三人吉三は庚申丸と百両を託してお家再興を願い、絵面の見得で幕。

私のツボ

「悪いことは出来ねぇなぁ」

吉祥院での和尚の台詞ですが、全ての物事は繋がっていて、この悲劇の結末は必然かと思わせる物語の展開です。
緻密に計算された構成で、黙阿弥自身も会心の作と評価していたようです。
KNPC118は、<大川端>のみの上演だったので、その場面だけにしました。
足を籠からお嬢を見つめるお坊、棒杭に片足をかけるお嬢。
これもまた渋くて絵になるのですが、三人が出会ったことで始まる物語ですから、やはり三人のトライアングルにしました。

その、棒杭に片足かけてのお嬢吉三人の有名な七五調のセリフの途中、「おん厄、払いましょうー。厄落とし」という厄払いの声が聞こえます。
それを受けて、「ほんに今宵は節分か」と続きます。
このセリフは厄払いの文句をもじっているので、”厄払い”と呼ばれています。
聞き心地の良い七五調で、節分の頃の江戸の風情も味わえますので、この場面だけでも十分楽しめます。

が、<大川端>は前菜どころか食前酒に過ぎず、この後の怒涛の展開がこの演目の魅力です。
近親相姦、同性愛、犬の祟り、盗まれた家宝、その他もろもろ山盛りです。

好きな場面も後半に多く、
伝吉がお坊と対峙して片肌脱ぎになるところ、
吉祥院の天井に隠れていたお嬢と再会したお坊、そして手を取り合う二人、
お嬢はずっと女装姿なので、少年であることをすっかり忘れてしまいます。
和尚の足にすがる、おとせと十三郎。
二人の襦袢には犬の模様が浮き出ています。
そして和尚が二人の首を抱えて花道を駆けて来るところ。

と、たくさんありますが、欲張らずに最後の大詰にしました。
この大詰が、悲壮感があってたまりません。
お嬢がむしろに身を隠して出て来るところも美しいのですが、やはり三人そろったところが描きたかったので。
とにかく絵になる場面が多い演目です。

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