描かれている人物
KNPC10 阿古屋(あこや)
KNPC179 枠右上:秩父庄司重忠(ちちぶのしょうじしげただ)
枠中央:阿古屋(あこや)
枠左下:岩永左衛門致連(いわながさえもんむねつら)
絵の解説
胡弓を弾く阿古屋
阿古屋の奏でる音色を聴く重忠。
琴、三味線に続き、胡弓を弾く阿古屋。
孔雀の羽根があしらわれた豪華な帯。
阿古屋の奏でる胡弓の音色に、思わず火鉢を火箸で叩いてリズムを取ってしまう岩永。
この後、うっかり袂を焦がしてしまいます。
琴責めをさんざんけなしておきながら、音色を聴いてウキウキしてしまう岩永。
やはり阿古屋の奏でる音色に偽りなしです。
岩永は人形振りなので、後ろで黒衣が操っています。
太い眉毛が上下します。
どちらも文楽人形の名残の演出。
赤地錦(あかじにしき)の裃に、黒ビロードの着付。
この組み合わせは赤っつらの定番スタイルです。
特徴のある鬘は、矢筈鬢(やはずびん)の鉞(まさかり)。
あらすじ
「壇浦兜軍記 」全五段のうち三段目の「阿古屋」
主な登場人物と簡単な説明
・阿古屋(あこや)
京都五條坂の遊女。平家方の武将悪七兵衛景清(あくしちべえかげきよ)の愛人で、景清の子を身籠っている。
・秩父庄司重忠(ちちぶのしょうじしげただ)
さばき役。
智勇兼ね備え情にもあつい源氏方の武将。
・岩永左衛門致連(いわながさえもんむねつら)
赤っつら。
重忠の助役と称して詮議に同席する武将。
景清への遺恨を晴らそうとしている意地の悪い男。
他、榛沢六郎成清、竹田奴たちがいます。
あらすじ
平家が壇ノ浦に滅び、時は源氏の世。
京都堀川の評定所に、景清の愛人・阿古屋が引ったてられてくる。
平家の武将・景清の行方を詮議するため。
阿古屋を調べるのは、秩父庄司(畠山)重忠と岩永左衛門。
景清の行方を問われた阿古屋は知らないと突っぱねる。
重忠は、水責めの拷問で口を割らせようとする岩永をおさえ、琴、三味線、胡弓を奏でさせる。
乱れのない音色を聴いた重忠は、阿古屋が本当に景清の行方を知らないと判断し、釈放する。
私のツボ
ファンタジー
源平ものの裁判劇。
善人のさばき役と敵役の赤っつら。
詮議されるのは豪華な衣装の傾城。
舞台は紗綾形の襖の評定所、三段の白洲梯子がかけられています。
と、完全なる歌舞伎の様式美。
ところが、どこかおかしい。
まず、なんと言っても岩永の滑稽な人形振り。
背後に人形遣いがつくのは岩永だけですが、微動だにしない榛沢六郎、重忠も動きが少なく人形のようです。
楽器を奏でる美しい動きの阿古屋も人形のように見えてきます。
奇声を発する竹田奴に至っては不気味で、ふざけた化粧が奇怪で怖い。
と、いつの間にか完全に現実から逸脱した、ファンタジーの世界になっています。
スルスルっと音もなく現実からずれていくこの歌舞伎独特の感覚が好きです。
そもそも、琴責めという拷問自体が非現実的です。
拷問らしからぬ優美な詮議。
細い竿と弓が交差する胡弓を弾く姿が美しいので、胡弓にしました。
なお、阿古屋は景清の行方を本当に知りません。
原作の「兜軍記」二段目、阿古屋の兄・十蔵が景清の行方を伝えようとすると、阿古屋は耳を塞いで拒みます。
行方を知ってしまえば、拷問を受けた時に吐いてしまいかねないとのこと。
結局、阿古屋は景清の行方を知らぬままなのでした。
本当は知りたいのに、景清とお腹の子供を思って拒む阿古屋。
これこそ阿古屋の性根なのだろうと思います。
赤地錦
俳優さんによって刺繍の模様が異なるようです。
亀甲花菱を龍に修正しました。
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