KNPC159 らくだ

かぶきねこづくし

描かれている人物

丸枠右上:家主佐兵衛
丸枠左下:家主女房おいく
丸枠右下:糊屋婆おぎん
中央:(左から)手斧目半次、らくだの馬太郎、紙屑買久六

*上方と江戸で名前や演出が異なります。
また、演じる俳優さんによっても演出や名前が変わることがあります。

絵の解説

”かんかんのう(看看踊)”を踊る半次、死体の馬太郎、久六。
死体の冷たい顔が頬に当たって叫ぶ半次、それを見て面白がる久六。
小心者の久六は酒によって性格が一変、半次と立場が逆転しています。

踊る死体に驚いて柱にしがみつく家主、同じく驚いて腰を抜かす家主女房

出は短いですが、強烈な印象を残す糊屋の婆。
弔いの道具(木魚)を半次に貸す。

原画

家主夫婦と糊屋の婆さんの三人を下に並べて描きましたが、動きが欲しいなと思い丸抜きで散らすレイアウトに変更。
背景にフグを散らす構図は最初から決めていたので、フグの水泡に合わせて丸抜きに変更。

長屋が舞台の演目は、背景の彩度が低くなります。
暗い背景が合う内容もありますが、喜劇なので水色にしました。
水色にしたのは、馬太郎の黄色い肌をより鮮やかに見せるためと、フグ=魚=海のイメージ。

フグ

原画

あらすじ

「眠駱駝物語」(ねむるがらくだものがたり)岡鬼太郎作

主な登場人物と簡単な説明

*演じる俳優さんによって久六以外は名前が変わることがありますが役の設定は変わりません。下記は江戸版。

・手斧目半次(ちょうなめ はんじ)
きっぷの良い遊人。長屋の住人。馬太郎の葬儀をあげ、あわよくば香典をせしめようと企む。

・紙屑買久六(かみくずがいきゅうろく)
気の弱いお人好し。酒好きで、酒を飲むと豹変する。

・らくだの馬太郎(うまたろう)
フグに当たって頓死。のっそりした風貌から”らくだ”のあだ名がついている。長屋の嫌われ者。

・佐兵衛、おいく
長屋の家主夫婦。ケチ。

・糊屋婆おぎん
長屋の住人。ケチ。

他、半次の妹おやすが出ることがあります。
*上方版には登場しません。

あらすじ

フグに当たって頓死した通称“らくだ”の馬太郎。
兄貴分の半次は、弔いの金を用立てようと、通りかかった紙屑買いの久六に長屋を回らせるが、住人も家主さえも応じない。

半次は嫌がる久六に馬太郎を背負わせ、家主宅へ押しかけ、死人に”かんかんのう”を踊らせる。
驚いた家主夫婦は酒肴の供物を約束する。

長屋に戻った半次と久六は、届いた酒を飲み始める。
仕事中だからと最初は断った久六だが、酒に酔って半次に絡み出す。
立場が逆転した久六と半次。
馬太郎、半次、久六と”かんかんのう”を踊りだす。

終わり方はそれぞれ演出が異なります。
久六が半次に命令して八百屋に漬物樽をとりに行かせる、
半次に馬太郎を担がせて焼き場へ向かう、
半次の妹が母の死を告げに来る、
などがあります。

私のツボ

踊る死体

上方落語の「駱駝の葬礼」が江戸落語になり、それを原作に岡鬼太郎が戯曲化したもの。
面白いと聞いてはいたのですが、死体で笑いを取るというのが抵抗がありました。
岡鬼太郎はこの芝居を書いた動機として、
”自分の身内が死ぬと泣き叫ぶのに他人の通夜だと笑いながら飲食し、仏の枕元で花札する輩さえいる。それが癪にさわるから”
と書いています。
分かるような分からないような、私にはよく分かりません。

前置きはさておいて、これが面白い。
死体で遊ぶなんて不謹慎だ、という建前も吹っ飛び、笑って笑って、百聞は一見にしかずだなと思いました。
しのごの御託を並べる前に、まず観る。
何事も観ないことには始まりません。

話を戻して、何より馬太郎がイキイキしていて可笑しい。
のっそり・ぐったり感を保ちつつ、軽やかな立ち回りです。

長屋

下町の長屋が舞台の演目は、色調が暗くなりがちです。
その暗さが合う演目もあるのですが、「らくだ」は喜劇なので、背景は舞台美術ではなく一色にしました。
青にしたのは、馬太郎の黄色の肌(黄疸が出ているのでしょうかね)を美しく見せるためと、死因になったフグ=海から着想しました。

下町の長屋の舞台美術は何度見てもよくできているなぁと思います。
壁の色むらは、雨漏りだと何かで読んだことがあります。
畳は薄く、茶色く灼けています。
ベスト・オブ・ボロ長屋は、「浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)」の「山三浪宅(さんさろうたく)の場」。
雨漏りするのでタライを天井から下げ、室内で傘を差しています。
次点で「水天宮利生深川(すいてんぐう めぐみの ふかがわ)」の筆屋幸兵衛の自宅。
「東海道四谷怪談」の「伊右衛門浪宅」は陰鬱な暗さがありますが、”怪談もの”かつ”南北もの”なのでこれは別枠扱いです。

上方はそこまでのボロ屋はないような印象があります。
写実を好む上方ですが、しんきくさいのは嫌なのかもしれません。

話が逸れてしまいましたが、歌舞伎は舞台美術もきめ細やかで素晴らしいです。

コメント