描かれている人物
枠上:繁蔵(しげぞう)、奴蘭平(やっこらんぺい)
枠下:奴蘭平(やっこらんぺい)、繁蔵(しげぞう)
絵の解説
不審者が屋敷にいるとのことで、行平が繁蔵に捕らえるように命令。
まだ幼い息子の身を案じて引き止めようとする蘭平。
その手を振りほどいて、あっかんべぇをする繁蔵。
この後、繁蔵は一人で捕物に向かう。
蘭平の着付は蘭の文字、繁蔵は繁の文字が胸にあしらわれています。
豪華な繻子の衣装は、繻子奴(しゅすやっこ)と呼ばれる役どころで、なんらかの目的あるいは任務のために奴に身をやつしている設定です。
逡巡の末、蘭平を捕らえようと、飛びかかる繁蔵。
〽恩愛の涙 はらはら はらはらはら
この後、「我が子の愛には叶わぬ(中略)手柄にいたせ」と蘭平は繁蔵の縄にかかるのでした。
蘭平のぶっかえりの衣装は、浅葱色の地に金糸で孔雀の羽の刺繍。
枠に描かれている紅葉と菊は、奥庭のあつらえから。
あらすじ
「倭仮名在原系図」(やまとがなありわらけいず)四段目
主な登場人物と簡単な説明
・蘭平 実は 伴義雄(らんぺい じつは ばんのよしお)
在原行平に仕える奴。
刀を見ると乱心するという奇病を抱えているが、行平を油断させるための仮病。
・繁蔵(しげぞう)
蘭平の息子。草履取りとして行平に奉公している。
・在原行平(ありわらのゆきひら)
御位争いに巻き込まれ、須磨浦に流されていたが、清和天皇の御代になり赦されて帰京。
未だ争いの余波が残るなか、仮病を装っている。蘭平のことを疑わしく思っている。
・壬生与茂作実は大江音人(よもさく じつは おおえのおとんど)
壬生村に住む百姓、義雄の弟義澄(よしずみ)と偽るが、本当の姿は義雄に盗まれた神宝を探索している小野篁(おののたかむら)の家来大江音人。
・おりく
与茂作の女房。正体は大江音人の妻明石。
他、水無瀬御前などがいます。
あらすじ
在原行平は左遷されていた須磨から都に呼び戻されますが、須磨の恋人松風のことが忘れられず病気になります。
奴の蘭平が松風に似た女、おりくを連れてきます。
おりくの夫・与茂作は、父の仇と行平に斬りかかるも捕らえられてしまいます。与茂作の刀を見た蘭平は、生き別れの弟伴義澄(ばんのよしずみ)だと気が付きます。
実は蘭平は伴義雄(ばんのよしお)という侍で、親の恨みを晴らすため、奇病をよそおって敵の行平に近づいていたのでした。
ところが、実は与茂作は義澄ではなく、小野篁(おののたかむら)の家臣で、義雄を見つけるための計略だったのでした。
奥庭に追い詰められた蘭平は大勢を相手に孤軍奮闘。
そこへ繁蔵が行平の命令で逮捕に来るので、繁蔵の縄にかかるのでした。
「この場はこのまま立ち別れ」という蘭平のセリフの後、引っ張りの見得で幕。
私のツボ
父と子
「蘭平物狂」といえば、三十名を超すアクロバティックな大立ち回り。
梯子を使っての大立ち回りは見応えがありますが、ハシゴの高さを出そうとするとどうしても絵が小さくなってしまいます。
前半は行平の屋敷が舞台なので、舞台美術も衣装も豪華です。
描きどころが多くて迷うのですが、とにかく話がややこしい。
本名題に「系図」の文字が入っている物語は、平安時代初めの皇位継承かかわる御位争いが描かれていることを示します。
どんでん返しの連続で、”実は”が多く、えーっと誰だっけ、と混乱します。
込み入った物語ですが、蘭平と繁蔵親子の愛が一貫して描かれています。
息子の身を案じながらも、手柄を立てたことを喜ぶ父。
奥庭での大立ち回りも、我が身よりも息子を案じての立ち回りならば、派手になるのも頷けます。
命令とはいえ、父を捕らえられない息子。
というわけで、蘭平と繁蔵ー父と子にしぼりました。
「汐汲」の舞踊でお馴染みの在原行平。
「蘭平物狂」では、食えないお殿様で、いつかまた機会があったらぜひ描きたい人物です。
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