描かれている人物
KNPC05 八ツ橋と妓夫
KNPC110 (左上から右回りで赤枠ごと)八ツ橋、佐野次郎左衛門と八ツ橋、佐野次郎左衛門、繁山栄之丞、八ツ橋と佐野次郎左衛門、佐野次郎左衛門
絵の解説
KNPC05 八ツ橋の花魁道中
金糸御簾縫いの打掛、蝶と八ツ橋に杜若(かきつばた)の俎板帯。黒塗りの三枚歯の下駄。
八ツ橋の髪型の特徴として緋鹿の子の裂(簪の後ろのピンク色の布)を一反半も掛けます。
KNPC110 一枚に全ての展開をまとめるという無茶をしました。
左上の八ツ橋の微笑みから、全てが始まります。
八ツ橋と出会い、夢中になる次郎左衛門。
その色模様に水を差すのが間夫の栄之丞。
冷酷で嫌な男ですが八ツ橋が入れ上げるのも頷ける色悪です。
そして愛想尽かし。
「花魁、それァあんまり袖なかろうぜ」
座布団から片膝ずり落ちているのがポイントです。
その片膝ずり落ちた体勢(でも背筋は真っ直ぐ伸びている)が、なんというか鬼気迫る怖さがあります。
四ヶ月後、再び吉原を訪れた次郎左衛門。
「籠釣瓶は、切れるなあ」
狂気の幕切。
とにかく欲張って全てを一枚に詰め込みました。
詰め込んだは良いものの、一枚の絵としてのまとまりに欠け、やはり欲張りすぎはよくないと反省しました。
無理やり詰め込むことで、取りこぼしてしまった間(ま)や空気があり、それこそが演目を構成する重要な要素なのかもしれません。
解説を描いているわけでもないですし、そもそも一枚にまとめる必要もありません。
私は何を描きたいのか、いろいろと気付かされることが多いカードになりました。
あらすじ
籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)
主な登場人物と簡単な説明
・佐野次郎左衛門(さのじろざえもん)
佐野の豪商。親の因果のせいであばた顔だが、純朴で誠実な人柄の男。
・兵庫屋八ツ橋(ひょうごややつはし)
吉原の妓楼兵庫屋の花魁。
・繁山栄之丞(えいのじょう)
浪人。八ツ橋の間夫。
・釣鐘権八(つりがねごんぱち)
金遣いのあらい遊び人で栄之丞の親分。八ツ橋の身元保証人という立場を利用して、八ツ橋から何度も金を巻き上げている。
他、吉原の引手茶屋立花屋の主人夫婦、九重、七越、初菊などがいます。
あらすじ
上州佐野の絹商人、あばた顔の佐野次郎左衛門と下男の治六は、江戸で商いをした帰りに吉原へ見物にやってきます。そこで吉原一の花魁八ツ橋の道中と遭遇した次郎左衛門は、八つ橋にすっかり魂を奪われてしまいます。
それから半年、田舎者ながら人柄も気前も良い次郎左衛門は、八ツ橋のもとへ通い、遂には身請け話も出始めます。
これを聞きつけた八ツ橋の親代わりの釣鐘権助は、八ツ橋の間夫・繁山栄之丞をたきつけて次郎左衛門との縁切りを迫ります。
追い詰められた八ツ橋は万座の中で次郎左衛門に然愛想づかしをします。恥をかかされた次郎左衛門はうちひしがれて帰っていきます。
それから四ヶ月後、次郎左衛門は再び吉原に現れ、妖刀「籠釣瓶」で八ツ橋に復讐するのでした。
私のツボ
一文字ちがいの釣鐘
最初、釣鐘権八を釣鐘権助だと見間違えて、こんなところで一時的にシノギをしていたのかとしばらく勘違いしていました。
権助が桜姫を女郎屋に斡旋する手際の良さも、この経験があったからかと納得していました。
「桜姫東文章」の初演が1817年、「籠釣瓶花街酔醒」は1888年なので、権助にちなんでの命名かもしれません。
こちらの釣鐘も悪い男で、その子分の栄之丞は色悪です。
そんな二人に良いように利用される八ツ橋こそ悲劇で、次郎左衛門に身請けされていたらとやるせなくなります。
華やかで、次郎左衛門の豹変ぶりも見応えがありますが、なんとも後味の悪い演目です。
全盛の花魁ならもっとうまく立ち回れるでしょうに、と文句も言いたくなります。
と言って八ツ橋が悪女だったらスッキリするかというと、それもまた単純すぎてつまらないような気もします。
後味が悪いからこそ、記憶に強く残ってしまうのかもしれません。
余談ですが、歌舞伎研究家の志野葉太郎氏によると二代目市川松蔦(大正時代の歌舞伎俳優)の八ツ橋は”同情を集めようのないくらい悪女”だったそうで、悪女の八ツ橋というのも一度見てみたいものです。
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