KNC62 二人椀久(ににんわんきゅう)

かぶきねこづくし

描かれている人物

椀屋久兵衛、松山太夫

絵の解説

〽なじみ情けのごひいき強く、のところ。
照明が明るくなり、松の後ろには満開の桜。
踊りもアップテンポになります。

椀久、松山(原画)

桜と松の組み合わせが美しく、二人が楽しそうに踊るこの場面。
手紙を使っての振りと迷いましたが、二人で同じ方向を向いている絵が良いなと思い、この絵になりました。
せめて、夢の中では二人手を取り合って同じ方向を見ていたい。

原画

舞台美術の松、桜、海をデザインしたもの。
儚げな淡い桜、松の大木のコントラスト。
淡い青は海。

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・椀屋久兵衛(わんやきゅうべえ)
大坂の豪商。遊女松山太夫に入れあげ、座敷牢につながれてしまう。松山恋しさに精神を病み、発狂。

・松山太夫(まつやまだゆう)
大坂新町の傾城。

あらすじ

月夜。
あてどなくさまよい歩く久兵衛は、いずことも知れぬ海辺にやってきました。
松の大木の下でまどろむ久兵衛の前に現れたのは恋焦がれていた松山。
二人はしばしの逢瀬を楽しみますが、やがて松山の姿は消えてしまいます。
すべて幻だったと気づいた椀久は打ちひしがれ、倒れ伏すのでした。

私のツボ

あやかしの桜

初めて「二人椀久」を観たのはDVDで、四代目中村雀右衛門さんと五代目中村富十郎さん、初代尾上菊之丞さんの振付によるものでした。
松山の可愛らしさ、椀久の柔らかみ、恋人たちの心の通い合い。
そして幕切の寂寥感。

舞台の松の大木の背景に桜がぼんやり浮かぶ演出が美しく、松山太夫が消えると暗転して桜は見えなくなります。
桜が全面に出る舞台美術ではなく、松と桜が引き立てあうのが美しい。
松、海、桜、月夜。
海辺近くに桜の木は果たして生えているのかしらん。
やはり桜は椀久の幻影なのかもしれません。

(中略)女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。
(中略)あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。
坂口安吾「桜の花の満開の下」

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