KNPC175「助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)」その1花川戸助六

かぶきねこづくし

描かれている人物

*描いている人物が多く、説明も長くなるので分割します。
花川戸助六(はなかわどすけろく)

絵の解説

花道の出での見得。

花川戸助六(原画)

黒羽二重の小袖、紅絹(もみ)の裏地に綾織の帯。
江戸紫縮緬の右結びの鉢巻、黄色い足袋。
鮫鞘の脇差と派手な印籠、衣装の背中には尺八、手には蛇の目傘。
江戸紫の鉢巻は病鉢巻といい、病気の人が左側に締めるものですが、逆に締めることで”病魔も逃げる放蕩無頼”を表しています。
江戸紫は青みの強い紫、赤みの強い紫は京紫です。

帯は家紋をあしらったものなので、かぶきねこづくし(R)版の家紋。
左から”向かい猫じゃらし” ”金魚” ”鯛”。
手描きなので実際には潰れてしまっていますが、このような模様で描きます、と監修用に別紙で図案を用意したもの。

家紋(原画)

あらすじ

役の説明

・花川戸助六(はなかわどすけろく)
花川戸の侠客。江戸一の良い男。揚巻の間夫。
実は曽我五郎時致(そがのごろうときむね)で、源氏の宝刀・友切丸(ともきりまる)を探し出すため吉原に出入りしています。
相手構わず喧嘩を売るのは、刀を抜いて詮議するためです。

あらすじ

吉原仲之町、三浦屋の格子先。
吉原一の人気花魁揚巻(あげまき)の元へは髭の意休が子分をつれて通ってきます。
助六の喧嘩沙汰を心配した母満江と白酒売りになった兄の十郎は、揚巻のところへ意見を頼みに来て、その真意を知ります。
助六があちこちで喧嘩を起こすのは、刀を詮議するためなのでした。
意休は助六の本心を見透かし、兄弟団結して親の敵を討てと意見をし、香炉台を切って見せます。
その刀こそ友切丸で、意休こそ伊賀の平内左衛門という盗賊だったのです。

はやる助六を、揚巻は意休の帰り際を待つようなだめるのでした。
ーー幕ーー
この後、水入りの場がつく場合があります。
意休を討った助六は、揚巻の気転で、刀を持って吉原を抜け出します。

私のツボ

助六いろいろ

家ごとに題名が異なりますので、まとめました。
助六の登場の際に河東節が演奏されるのは成田屋さんのみです。
また、幕開きの口上も成田屋さんのみです。
音羽屋さん『助六曲輪菊(すけろくくるわのももよぐさ)』清元
松嶋屋さん『助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)』長唄
高麗屋さん『助六曲輪江戸櫻(すけろくくるわのえどざくら)』長唄
澤瀉屋さん『助六曲輪澤瀉櫻(すけろくくるわのいえざくら)』長唄
大和屋さん『助六櫻の二重帯(すけろくさくらのふたえおび)』常磐津

成田屋さんが上演する場合は「助六由縁江戸桜」です。
成田屋さんの芸は描かない決まりなので、長らく助六は描けませんでした。
歌舞伎のエッセンスが詰まった演目で、脇役も多彩で、衣装も豪華です。
華やかで楽しく、賑やかなお祭りのようなあの空気を絵にしたいなと常々思っていました。
もちろん描きましたが、もちろん監修は通りませんでした。

いつか描きたいなと思っていたところ、松嶋屋さんが助六を演じるとの発表が。
これは一大事と勇んで描きました。
主だった人物に限って描きましたが、茶屋廻りの金棒、傾城、遣手、他にもまだ描きたい役柄がたくさんいます。

二時間以上かかる大作で、登場人物も多く、特別な演目なので頻繁には上演されませんが、いろいろな助六を見比べてみたいものです。

三階席から望む助六と傘

蛇の目傘は、助六を勤める俳優さんの身長に合わせて作るそうです。
外側は濃紺と白でシンプルですが、中骨は段ごとに色が変わっていてカラフルです。
花道でも舞台でも、助六の見得はたくさんあります。
片肌脱いでの見得は、赤い襦袢が黒着付けに映えて美しいです。

でもやはり花道で右手を伸ばして傘を持ち、腰を落として視線を上に上げる姿が一番印象に残っています。
三階席でやっと助六の顔が見える瞬間なので記憶に残っているのだろうと思います。
たっぷり時間をかけて花道を歩いてくるので、三階席だとなかなか助六が見えません。
ジリジリ待って…きゃー助六さんよ!
花道の助六を最初から最後まで堪能できるのは一部の座席で、助六が見える位置に移動すると座席が俄に色めきたつので面白いです。
客席の様子を見渡せるのは三階席ならではです(やや負け惜しみ)。

傘を描くのは少し気合が必要なのですが、助六といえばやはりこのポーズ。
傘の曲線がガタついても気にしません。
中骨は細い線なので大変ですが、助六のためならえんやこら。

かなり初期に描いた、足指に煙管をはさんだ助六はお楽しみに広場にいますので、よろしければどうぞ覗いてみてください。

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