描かれている人物
後方:百姓与右衛門実は久保田金五郎
手前:腰元かさね
絵の解説
青日傘(絹張りの日傘)を手にした累。
与右衛門が手に持つのは、昔、かさねの父の命を奪った鎌。
かさね:薄紫地に御殿模様の振袖、立矢の地結びの帯
与右衛門:黒羽二重の紋付に献上の帯
梅幸型の衣装です。
菊五郎型は、かさねが矢絣(やがすり)、与右衛門は團十郎格子です。
かさねの襦袢の紅葉模様が血飛沫のようです。
冒頭、二人の登場の仕方も梅幸型と菊五郎型の2種類があり、梅幸型は両花道を使うそうですが、私は観たことはありません。
与右衛門が月明かりで文を読むところ、かさねの手を掴んで手鏡をかざすところ、などなど他にも絵になる場面が多々あります。
これもかなり昔に描いた作品で、1カードにつき1場面と自分なりのルールを設けていた頃です。
あらすじ
「法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)」鶴屋南北作
二番目序幕
主な登場人物と簡単な説明
・累(かさね)
助と菊の娘で与右衛門と同じ結城家中の美しい腰元。
親の仇と知らず与右衛門と深い仲になり、身籠る。
・百姓与右衛門(よえもん)実は久保田金五郎
色悪(いろあく)の典型。
元は久保田金五郎という侍でしたが、百姓助(すけ)の妻・菊と密通し、助を鎌で殺害して、今は百姓に身をやつしている。
助と菊の娘だとは知らずに腰元のかさねとも不義密通し、心中を約束するも故郷の羽生村へ逃げる。
他、与右衛門を追う捕手の役人が二人います。
あらすじ
結城家の奥女中・かさねは与右衛門と深い仲になり、二人は心中を約束しますが、与右衛門が出奔。
かさねは後を追って木下川堤で与右衛門と再会します。
かさねがふたりの馴れ初めを語ると、草刈り鎌の刺さった髑髏(されこうべ)が流れてきました。
与右衛門が髑髏から鎌を抜くと、かさねの左目が醜く変わり、左足が不自由になります。
髑髏はかつて与右衛門に殺された助のもので、かさねはそのとき一緒に流された赤ん坊だったのです。
与右衛門は土橋の上で草刈り鎌を振り上げ、足手まといになるかさねを殺します。
殺されたかさねの魂魄(こんぱく)は、その場を立ち去ろうとする与右衛門を引き戻すのでした。
私のツボ
ゴシック・ホラー
南北先生の腕が冴える怪談ものです。
月夜の川辺、鎌の刺さった髑髏、卒塔婆、怨霊。
このアイテムだけで、アリス・クーパーかブラックサバスのアルバムジャケットになりそうです。
南北には現代でも十分通じるセンスがあり、特にゴシック界隈に訴求するセンスは歌舞伎戯作者随一だと思います。
素材の組み合わせ方がゴシック・ロックに近いのでしょう。
この辺りの様式化された退廃美は安定した社会情勢あってのものですから、平和とは尊いものです。
三島由紀夫「ビートルズ見物記」
<私の数列うしろの席は、ビートルズ・ファンの女の子たちに占められてゐたが、その一人はときどき髪をかきむしつて、前のはうへ垂れてきた髪のはじをかんでゐるが、アイ・ラインが流れだしてゐる恨むがごとき目をして、舞台をじつと眺めてゐる顔は、まるでお芝居の累である。>
三島由紀夫が書いた「ビートルズ見物記」より。昭和41年6月「女性自身」に掲載されたもの。
しばらく前、たまたまこの文章を目にする機会があり、こんなところに累が出てきて驚くとともに、累が世間的に広く知られているという前提に少し驚きました。
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