KNPC94与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)

かぶきねこづくし

描かれている人物

枠右上:蝙蝠の安五郎(こうもりのやすごろう)
枠左中央:伊豆屋与三郎(いずやよさぶろう)
枠右下:お富(おとみ)

絵の解説

背後の猫たちは潮干狩りをしています。
平和な春の光景です。


枠内のお富、与三郎、蝙蝠安は「源氏店の場」、背景は「木更津海岸見染の場」で二人が出会うところ。
この演目は絵になる場面が多く、非常に悩みます。

しかし、まずは事の発端が肝心と二人の出会いの瞬間を描きました。
まだ大店の若旦那だった頃です。
この後、お富にみとれて羽織が肩から滑り落ちます。

あらすじ

通称 「源氏店」(げんじだな)

主な登場人物と簡単な説明

・お富(おとみ)
元深川芸者。木更津で赤間源左衛門の妾となっていた時に与三郎に出会う。

・伊豆屋与三郎(いずやよさぶろう)
江戸の小間物問屋の伊豆屋の養子。
実子の弟に家督を継がせるためわざと放蕩に耽り勘当されるのを待っている。
木更津の親戚宅に預けられ謹慎中。

・蝙蝠の安五郎(こうもりのやすごろう)
右頬に蝙蝠の入れ墨があることから蝙蝠安とも呼ばれる小悪党。

・和泉屋多左衛門(いずみやたざえもん)
鎌倉の大きな質屋和泉屋の一番番頭。身投げをしたお富を助け、面倒を見ている。
実は生き別れになった兄なので、お富とは男女の仲になってはいない。

他、鳶頭の金五郎、下女およし、番頭藤八などがいます。

あらすじ

木更津海岸見染の場
与三郎とお富は木更津海岸で出会い、一目惚れ。
*上演がカットされることもあります

赤間別荘の場
与三郎とお富の関係が源左衛門に知られ、与三郎は滅多切りにされ海へ放り投げられます。
お富は「与三郎は殺された」と聞いて海に身投げしますが、たまたま通りかかった船に助けられます。
*この場は上演カットされることが多いです

源氏店の場
それから三年が経過します
お富は和泉屋の番頭多左衛門の囲い者になっています。
多左衛門の家へ与三郎が蝙蝠安と一緒にゆすりに来ます。
与三郎は死んだと思っていたお富と再会し、お富をなじります。
そこへ多左衛門が帰宅し、与三郎に十五両の金を渡して帰らせます。

多左衛門は守り袋をお富に渡し、店へ戻ります。
守り袋の中に入っていた臍の緒書(ほぞのおがき)から多左衛門がお富の兄であることが分かりました。
戻ってきた与三郎はそれを聞き、お富と抱き合って喜ぶのでした。

私のツボ

春日八郎

歌舞伎をよく知らない頃でも、なぜか知っていたのがこの演目です。
おそらく春日八郎の「お富さん」の影響かと思います。
発売当時は生まれておりませんが、なぜか歌えます。
どこで聴いたのか、与三郎の名台詞も一部知っていました。

断片的ながらも予備知識があったので、初めて観た時は「これが噂のお富さんね」と非常に興奮しました。
大人の色気がムンムンする大好きな演目です。

蝙蝠安

二枚目の与三郎と違い、脂っぽくて薄汚く、奥でうずくまってじっとしている姿の怪しいこと。
このなんとも食えない感じがたまらなく良いです。
古い舞台写真を見ると、そうそうたる俳優さんたちが演じていますが、どれもじっとりとした佇まいで素晴らしいのです。
単なる与三郎の引き立て役ではなく、美男美女の再会の場をピリッと締めるワサビのような存在だろうと思います。
蝙蝠安がいない源氏店はサビ抜きの寿司のようなものかもしれません。
「蝙蝠の安さん」というスピン・オフ作品もあります。

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