描かれている人物
左上:星影土右衛門
右上:御所五郎蔵
下:(左から)逢州、御所五郎蔵
絵の解説
逢州を斬りつける五郎蔵
左:妖術でスッポンから登場する土右衛門
右:花道から登場、七三での見得
「派手な模様の裲襠も、あの世へ送る死装束〜」
黒衣
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)
京都の男伊達(侠客)。
旧主巴之丞の借金百両の工面に奔走している。
・逢州(おうしゅう)
五條坂の傾城。巴之丞の寵愛をうける。
皐月の代わりに花形屋まで土右衛門に同行する。
・星影土右衛門(ほしかげどえもん)
剣術師範。五郎蔵の宿敵。
金に物を言わせて皐月を身請けする。
他、五郎蔵の子分、星影土右衛門の弟子などがいます。
あらすじ
五條坂仲之町廓内夜更の場
皐月の心変わりを恨んだ五郎蔵は、土右衛門一行を待ち伏せ、斬りつける。
土右衛門は妖術を使って姿を消す。
五郎蔵は逢州を殺害、首を切り落として包む。
土右衛門が忽然と現れ、二人は斬り合うが勝負がつかない。
またしても土右衛門は妖術を使って逃げ、夜の闇の中、一人五郎蔵が残される。
私のツボ
土右衛門の妖術
歌舞伎舞台の独特の舞台装置といえば花道で、
その花道にあるスッポンというセリを使う者は妖術使いや幽霊など、
この世の者ではない”人外”に限られます。
人外魔境との接点のようで、スッポンが使われると俄然盛り上がります。
今回、通しで描くにあたって参考にした2003年6月の公演では、
土右衛門が忽然と姿を消したり現れたりして五郎蔵を翻弄した挙句、
スッポンから煙幕と共に登場し、
不敵な笑いを浮かべて花道を悠々と引き上げます。
スッポンから登場する場合には、蝋燭を持った黒衣も二人おり、
これぞ歌舞伎の醍醐味であります。
土右衛門が妖術使いというのは唐突感がありますが、
もともと剣術師範で、剣術と共に”陰行(おんぎょう)の術”の達人だったという設定です。
この狂言の種本の、「浅間嶺面影草子(あさまがたけおもかげそうし)/ 柳亭種彦 作」では、
土右衛門がこの妖術を使って団の一斎を殺害して金を奪います。
団の一斎は浅間家の茶道師範であり、逢州・時鳥姉妹の実父。
土右衛門が浅間家を追い出されて浪人になった直後の凶行です。
追い剥ぎに妖術を使うとは、武士失格ですが、それが土右衛門という男。
この場面はほぼ丸ごとカットされ、
逢州が浅間家にゆかりのある人間だったという設定もほぼカットされます。
妖術使いという土右衛門の怪しい側面のみが残されています。
この後、土右衛門はどうなったのか描かれていないので、
だったらなおさら彼の妖術に触れなくて良いのではとも思うのですが、
そこは歌舞伎のサービス精神といえましょう。
甲屋で愛想づかしをされ、怒りに任せて闇討ちをする五郎蔵ですが、
衣装を着替えており、これも歌舞伎のサービス精神。
土右衛門が一旦舞台から消えて、五郎蔵と逢州の絡みの後に、姿を再び表すとき、
羽織と着物を脱いで薄グレーの襦袢姿(あるいは着物)になっています。
「甲屋」「奥座敷」の場面、土右衛門の裾裏が同じ薄グレーです。
スッポンといえば「伽羅先代萩」の仁木弾正。
彼も薄グレーで統一された衣装です。
スッポンから登場する人物はグレー系統の衣装が多い。
薄グレーは鈍色(にびいろ)と呼ばれて平安時代は喪中の衣装の色だったため、
忌色とされていたことに由来するのかもしれません。
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