AKPC99 「加賀見山再岩藤(かがみやま ごにちの いわふじ)〜鳥井又助の場合」

もうひとつ

描かれている人物

上:鳥井又助
赤枠上:(左から)花房求女、おつゆ、志賀市

絵の解説

浅野川でお柳の方(実は梅の方)を水中で刺し、川堤にあがったところ。
刀の水を着物の裾で拭う。

おつゆ
求女と婚姻の盃を交わすところ

浪人中の忠臣の典型スタイルの花房求女

琴を奏でる志賀市

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・鳥井又助(とりいまたすけ)
花房求女の家来。

・花房求女(はなぶさもとめ)
多賀大領の家臣。大領に意見したところ疎まれて追放される。
病を患い、鳥井又助の家で世話になっている。

・おつゆ
又助の妹。求女と深い仲になり、薬代を工面するため廓に身を売る。

・志賀市(しがいち)
又助の弟。盲目。按摩師として家計を助ける。琴が上手。

他、安田帯刀、蟹江一角などがいます。

あらすじ

*上演によって演出が異なる場合があります
発端 多賀家下館奥庭の場
多賀大領は、お家乗っ取りを企む望月大膳に操られ、愛妾お柳の方にうつつを抜かして遊興に耽っていた。
岩藤はこの騒動を利用しようと蘇り、大領の妹の花園姫の夢に毎晩現れて苦しめている。

大領の屋敷。
新清水の奥庭で花見が催されていた。
忠臣の花房求女は、大領の放埒を諌めるが、かえって不興を買う。
おまけに求女は家宝の香炉を紛失し、怒った大領は求女を成敗しようとする。
正室の梅の方の取りなしで命は助かるが、刀と裃は取り上げられ、勘当される。

香炉の紛失は望月弾正一派の仕業であった。
弾正は取り上げられた求女の刀を自分のところに届けるよう命じる。
序幕 多賀家下館堀外の場
求女の下僕の鳥井又助は、追放された上に病で足腰が立たなくなった求女を引き取って世話をしていた。
主人の処遇を相談しようと、多賀家の忠臣安田帯刀(やすだたてわき)に会いに来る。
そこで弾正の家来・蟹江一角に出会い、お柳の方暗殺を持ちかけられる。
大領をたぶらかすお柳の方を求女の刀で殺害することで、求女の手柄となり、帰参が許されるであろうと。
求女の帰参が叶うならと、求女の刀を受け取る又助。
この後、お柳の方が船で浅野川を渡って帰るので、絶好のチャンスであること、目印は菊唐草の紋が入った提灯と説明を受ける。

又助が立ち去った後、一角は梅の方の提灯を菊唐草の紋に取り替えるよう弟の主税に指示する。

浅野川川中船中の場
大領から追い返された梅の方は浅野川を船で渡っていた。
提灯は菊唐草の紋。
水中から突然現れた又助に刺される。

浅野川堤の場
岸に泳ぎ着いた又助は安田帯刀とすれ違う。
帯刀は求女の刀の鞘を拾う。

二幕目 馬捨場八丁畷三昧(はっちょうなわてさんまい)の場
5年前のこと、
多賀家では剣沢弾正に唆された局岩藤が、お家乗っ取りを企み、中老尾上に無実の罪を着せた上に草履で打ち据えて侮辱し、尾上は自害する。
尾上の召使だったお初は岩藤を成敗し、その功によって二代目尾上として中老となった。
一方、岩藤は八丁畷の馬捨場に打ち捨てられ、野鳥に食われて白骨化していた。

尾上の命日。
二代目尾上は、お初の装束で先代の墓参をした帰り、岩藤の霊を回向しに野辺にやって来た。
弥陀像を出して拝もうとすると、意識を失い、その間に岩藤の霊が蘇る。
意識を取り戻した尾上が驚いて岩藤の霊に弥陀像を向けると、霊は退散する。
この騒ぎで尾上は弥陀像を紛失してしまう。

花の山の場
蘇った岩藤の霊は、満開の桜の中、傘をさしてふわふわと飛んでいく。
三幕目 多賀家奥殿草履打ちの場
大領の妹花園姫は毎晩、岩藤の悪夢にうなされていた。
悪霊退散の効力がある弥陀像を紛失した尾上を、弾正は「お家乗っ取りのためにわざと失くした」と糾弾する。
すると、忽然と岩藤が現れ、尾上を侮辱し、あまつさえ草履で打ち据える。
そこへ安田帯刀が弥陀像を見つけたと馳せ参じる。
尾上が弥陀像を向けると岩藤は身動きが取れなくなり、退散する。

四幕目 鳥井又助内切腹の場
又助は釣餌を売って生計をたてながら、病で足腰が立たなくなった主人求女を引き取り世話をしていた。
又助には、盲目の弟の志賀市と妹のお露がいた。
お露は求女と深い仲になっており、薬代のため廓に身を売る決意をする。
求女は、病が治り、帰参することができた暁には妻にすると約束する。
又助は二人に夫婦固めの盃事をさせ、おつゆは家を出る。

そこへ安田帯刀がやってきて、浅野川岸で拾った刀の鞘を差し出し、梅の方が殺害されたと告げる。
お柳の方と間違えて梅の方を殺したこと、その刀の鞘が求女のものだったため求女に嫌疑がかかること。
帯刀は切腹を勧めて奥へ下がる。
ことの次第を知った又助は愕然とし、求女は妹ともども縁を切ると言い自室へ下がる。

そこへ弟の志賀市が、琴の師匠の家から戻る。
師匠の計らいで、琴が上手に弾けたので又助たちに聴かせるようにと琴を運び込んでもらう。
何が起こっているのか気付かない志賀市は琴を奏でる。
その音色を聴きながら又助は切腹する。

奥から出てきた帯刀と求女に、又助は「蟹江一角の提案で、お柳の方と思って梅の方を殺した」と語る。
そこへ、おつゆが薬代の百両を持って帰ってくる。
帯刀は求女の帰参がかなうよう尽力し、妹弟の面倒も見ると約束する。
又助はそれを聞いて息絶える。

大詰 多賀家下館奥庭の場
悪事が明るみになった弾正は、お柳の方とともに大領を殺そうとするが討たれる。
家宝の香炉も取り戻され、お家安泰、一件落着、めでたしめでたし。

私のツボ

歌舞伎のお約束

岩藤の物語と並行するもう一つの物語が鳥井又助。
物語だけを見ると、なんともやりきれない悲劇ですが、歌舞伎のお約束が満載です。

まず、又助の主人の花房求女。
家を追放されて病に伏せるといえば『沼津』の和田志津馬。
こちらは刀傷が元で病気になっています。
求女の服装は、肩当(かたあて)のやつしスタイルに病鉢巻。
やつしスタイルといえば『鮨屋』の平維盛、『蘆屋道満大内鑑』の安倍保名、『當世流小栗判官』の小栗判官、『摂州合邦辻』の俊徳丸など。
求女の衣装は俊徳丸、小栗判官に似ています。

家来に匿われ、家来が命を落とす展開になるのは平維盛に似ています。
家来の妹に好意を寄せられるのも似ています。
それどころか深い仲になるのもお約束です。

そして、家来が主君のために、意図せぬ過失が原因であれ切腹する羽目になるのもお約束で、『鮨屋』の権太はもちろんのこと、『仮名手本忠臣蔵』の勘平を彷彿とさせます。
さながら安田帯刀は不破数右衛門といったところでしょうか。

他に類似が見当たらない、この演目のオリジナルは志賀市でしょうか。
盲目の弟には兄に迫る悲劇がわからず、兄を喜ばせようと純粋に奏でる琴が葬送曲になるという、悲劇の引き立て役のような存在。
志賀市だけが、メンツやプライドや義理やこの世のしがらみとは無縁の、美の世界にいるかのような演出は、洋の東西を問わず普遍的な演出のように思います。

というわけで、主要なメンツで固めました。
又助は、濡れた着物の滴をはらう場面。
ゆったりを滴をはらう仕草がよろしいです。

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